第3話 ハイネケンストリート・エレジー 茫然自失のライカ犬
俺は麦酒を呑む。一夏で風呂桶一杯は吞んだか。
麦酒はブースターでありファズでありディレイである。
輪郭をぼやかしサステインを増幅させる。その残響音を頼りに自分の心を確かめるのだ。
合法にして強力なドラッグ。毎晩肝臓を痛めながらでないと確認出来ない阿呆なのだ。
そうしてぼやけた自分でたまたま隣にいた女の子を口説き体を重ね、微かな自尊心を満たし少しだけ後悔する。
全て合法だ。
さらには例えば電車に飛び込んで自殺したら咎められることもあるだろう。
しかし酒を呑み緩やかに自殺しても咎められないのである。
倫理的な意味でも酒が作った柔らかい幻想に世間は優しい。
バンドマンはなるべく優しい場所に避難する。反吐が出るくらいにダメ人間だから。
大麻は他の依存性物質に比べて害が少ないだって?
それがどうした。違法である以上ナンセンスだ。
俺は投獄されたくない。自由であることのみが命をこの世に繋ぎとめる最低条件だ。そして自分で作り上げた偽りの安全地帯にプカプカと浮かんでいたいんだ。
最後の瞬間、最後の一滴まで幻を味わい尽くすんだ。
そうして生き長らえて何になる?何を成す?
多分全てに意味はないのだろう。
人間は無意味なものに勝手に意味を見出し、そこらにとっちらかした事柄を無理矢理関連付けて運命なんて嘯くのさ。滑稽だ。
ここは遠い遠いお空の上、光溢るる神々の国では全知全能の神が青筋を立てながらモニターを凝視していた。
「なんなの?コイツら。何も産み出さないくせに芸術家気どりで。
自暴自棄になることが退廃的、デカダンスってか?まったくもって滑稽だよっ!
神は憤怒した。」
ハ……ル……マ……ゲ……ドーーーーーーーーン!!!!
地球は滅んだ(2度目46億年ぶり)
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