第10話 誠子の前進
友里子は誠子を呼び出した。10年前に誠子が三回目の結婚をした時に冬美と一緒にお祝いをして以来のことだった。
「どうしたのよ。私なんかを呼び出して」
誠子は不機嫌に言った。
「ごめんなさいね。ちょっと助けてもらいたくて」
誠子は友里子の弱気な言い方に嬉しそうな顔を一瞬だがしていた。友里子は気が付かないふりをした。
「明日香にね、見られてしまったようなの」
「えっ何を?」
誠子は食いついてきた。
「うん・・・」
友里子は言い難そうに演技をしながら、家族がバラバラになり寂しいことを訴えていた。事実を言いつつも、友里子自身の心情については全くの作り話だった。
「私なんてさあ・・・」
ほんの少し友里子が弱音を吐いて聞かせただけで、誠子は自分の話を長々と始めた。友里子の思惑通りだった。
「えっ、娘さんが?」
誠子は娘が明日香からホストクラブへ誘われていることをこぼし始めた。
「まだ、あの子はホストクラブには行っていないのだけれど、時間の問題かな。本人は明日香にそそのかされてその気になっているから」
「25歳だっけ?」
「そう、もう大人なのだけれど、やっぱり親としてはねえ」
「そうよねえ。ダメよ、ホストクラブになんか行かせたら」
「そう思うわよねえ、私だってもう二度と行きたくはないのよ」
「そうなの?」
「うん、だっていくら明日香のお金だって言ってもそうはいかなくなってきて・・・」
「どういうことよ」
「私の担当の子から今度は一人で来てくださいって言われて、ちょっとその気になったのだけれど、行ったら何十万では済まないことはわかっているし・・・」
「そんなにかかるのね」
「それにねえ、明日香はホストクラブにお客を連れてくる役割をしているのよ」
「何それ?」
「偶然に知ってしまったのだけれど、明日香が誘って連れてきたお客様がその後常連になっているケースが沢山あったの。それでトラブルにもなっているらしくって・・・」
「トラブル?」
「そう、私の場合は、意外とこれでもホストクラブにハマらなくて、一人では行かないって、頑なに言っていたから大丈夫だったのだけれど、たいがいはその後一人で行くのよ。それからはお金が湯水のごとく財布から出ていくってわけよ」
「あなたのお嬢さんにもそれをしようとしているってこと?」
「そうよ。若い子にはね、水商売とか風俗に手を出させて支払わせるって話を聞いたの」
「そんなあ。ひどい話ね」
「昔の話を思い出すわ」
「何?昔の話って」
友里子は冬美にした話を誠子にも聞かせた。そして、冬美から聞いた話もしていた。
「そうだったのね。知らなかった」
「ごめんね。変な話をしてしまったかもしれないわね」
「いいえ、聞いてよかったわ。娘にも言い聞かせないと・・・」
「それはちょっと待った方がいいわ」
「どうして?」
「明日香のやり方は知っているでしょう。お嬢さんは明日香の嘘を信じてしまうわ」
「そうね。じゃあ、どうすれば・・・」
「冬美からの話には、実は続きがあるの」
友里子は誠子に冬美が明日香の母親から頼まれたことを話していた。
「明日香のお母さんから?」
「そう、明日香のお母さんは明日香の今までのことを知ってそれで冬美に・・・」
「そうか・・・」
誠子はしばらく考え込んでいた。
「ごめんね。もう、この話は止めよう。話だけで終わりにしよう」
「それでいいの?」
「えっ?」
驚いて見せた友里子だったが、本心ではなかった。
「ねえ、私たち三人なら実行できるのではないかしら?」
「でも・・・」
躊躇して見せる友里子だった。
「だって私、娘を説得する自信はないのよ。私自身だって明日香からの誘いを断れないでいるし、このあたりで開放されたいのよ。私はもう限界なの」
誠子は泣きながら言っていた。
「わかったわ。何とかしよう」
「うん。友里子の言うとおりに何でもするから」
「まずは明日香に私のことを吹き込んで。家族はバラバラで夫は浮気をしているとか、私も不倫をしているらしいって言うのよ。そして、格安のスーパーで買い物をしているって伝えて。きっと、私の姿が見たくなって偶然を装って近づいてくるはずよ。そして、明日香の家でホームパーティーをするように仕向けるの」
「わかったわ」
「それから、私たち三人はいがみ合っているという設定を貫くのよ。どこで誰に聞かれるかわからないのだから、特に外での会話には気を付けること」
「それで、私は何をしたらいいの」
「普通にしていて。ホストクラブには誘われたら行ってもいいわ。むしろ行かないと覚られるかもしれないから」
「わかったわ。でも、大丈夫かしら」
「あなたはあなたのままでいいの。何もしなくていいの。私たちの悪口を警察でも言うくらいでちょうどいいのよ」
「私のまま?何よ。何だか悪口を言われているような・・・」
「そんなつもりはないわよ。とにかく明日香の家で同窓会をするの、それで全てをおしまいにするの」
「わかったわ」
「これからは連絡も取らないからね。当日会いましょう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます