第4話 誠子への陰口

 会議室に佐伯が冬美を連れて入ってきた。瞳は佐伯の顔を見て瞳は涙が出そうになっていた。こんなにも佐伯の登場が嬉しいなんて、我ながらゾッとしてくる。この状況でなければ有り得ないことだった。

「少し休憩にしましょう」

 後から婦警が人数分のお茶を持って現れた。その隙に瞳は廊下に出る。大きなため息を吐いていた。

「大丈夫か?」

 佐伯に声をかけられ、泣きそうな顔を見せてしまった。

「ちょっと限界です」

「そうだろうと思ったよ。女同士のドロドロ劇を聞かされたようだな」

「はい、えっ、わかっていたのですか?」

「ああ、俺のカミさんより少し上の年代だよな。何となくわかるんだよ」

「何だか私、人間不信になりそうです」

「もう少しの辛抱だ。録音しているな。後でじっくり検証しよう」

「はい、お願いします」

 佐伯は瞳のために休憩時間を設けてくれたようだった。ガサツなようで優しいところがある。瞳はその優しさに応えるべく、気合を入れてまた会議室へと戻った。


 誠子が呼ばれ、会議室を出て行く。友里子と冬美はお互いを労っているようだった。誠子がいた時は声が大きくて聞き取り易かったが、今回は聞こえないかもしれないと、焦る瞳だった。

「大変なことになったわね」

 友里子らしい声が聞こえる。

「ええ、明日香が可哀そう」

「そうね。でも、自業自得よね」

 友里子は優しい母親という印象から一転、鬼の心を見せてきた。

「そうかもしれないけれど・・・」

「犯人は誠子じゃないかしら」

「えっ、そんな・・・」

 誠子が友里子に対して言った言葉を返すように今度は友里子が言う。

『もう、どういうことなのよ』

 瞳は頭が痛くなってきた。

「だって、誠子は明日香の会社に投資をしていたでしょう。そのお金を巡って色々とあったらしいじゃない。それに誠子の旦那さんは今病気で大変だって言っていうし」

「そうだけれど、だからって・・・」

「誠子は自分勝手なのよ。子どもだって三人も産んでおいて、自分では育てていないし、本当に無責任よね」

「そうね」

 冬美の言葉は消えりそうだった。

「誠子は明日香にいいように振り回されていたじゃない。明日香も明日香で、子どもがいる誠子をホストクラブに誘って、まあ、そこで嵌ってしまう誠子も誠子だけれど」

「・・・」

 冬美の言葉はもう聞こえなくなってしまった。

「それに、明日香の会社は詐欺を働いていて投資したお金は戻ってこない。そのことを誠子も知っていて・・・」

『詐欺って・・・』

 瞳は佐伯が言っていた『家政婦はハッキリとは言わないが、殺されたかもしれないと聞いても驚かなかった』という言葉を思い出していた。これはやっぱり殺人事件で、金銭トラブルが原因なのか。瞳は必死に頭を整理させていた。

 それから二人は何も言わなくなってしまった。


 三人は取り敢えず家に帰された。瞳は自分のメモを見た。

 友里子は明日香と年賀状の交換はずっと続けていたが、三十年ぶりに会ったという。友里子は明日香に不倫を目撃されている。

 冬美は明日香の母親の訪問看護をしていた。明日香から借金をしている。

 誠子は明日香の会社に投資をしているがそれは詐欺だった。

 誠子は明日香と一緒にホストクラブに通っていた。

 三人が本当は仲が良くないことはハッキリしている。

 それぞれに明日香を殺害する動機がある。


「そうか。三人共殺害する動機があるのだな」

 いきなり佐伯から声をかけられ、瞳は心臓が飛び出てしまうのではないかと思うほど、驚いた。

「ちょっと、上から覗き見るのは止めてください」

「司法解剖の結果はまだだが、やはり薬物の過剰摂取が死因ではないかということだ」

「薬物?」

「ああ、違法ドラッグらしい」

「違法ドラッグ?だとしたら、あの三人には縁がないような・・・」

「そうだな。消えたホストが怪しいが、被害者の携帯電話も消えていてまだどこの誰ともわかってはいない」

「誠子という人は被害者と一緒にホストクラブに通っていたようですが」

「そのようだな」


 司法解剖の結果、病的死因は見つからなかった。やはり違法ドラッグの過剰摂取が原因による死亡で、死亡推定時刻は午前三時頃という見立てだった。

 ホストが明日香の家を出たのが午前七時頃だとすると、ホストが違法ドラッグを所持していて一緒に服用するも明日香自身が量を間違えたのではないか。亡くなっている明日香を発見したホストは、自分の素性が発覚するのを恐れて、携帯電話を持ち去り逃げ出した。それが捜査会議の出した結論だった。ホストの割り出しに捜査員が駆り出されることになった。

 瞳はどこか腑に落ちなかった。あの同級生たちは本当に何の関係もないのか。言葉には出せなかったが、どうしても浮かない顔をしてしまうのだった。

「納得していないようだな」

 佐伯にそう言われても、何をどう納得していないのか、説明できないことに気が付いた。

「はい、でも・・・」

「言葉にできないか。まあ、関係者っていうことで、おばさん三人をもう少し調べてみるか」

「えっ、いいのですか?」

「ホストのことを調べているっていう体なら、問題ないだろう」

「はい、ありがとうございます」

 瞳は佐伯にお礼を言っていた。

「ただし、三人から苦情が入らないように注意しろよ」

「はい、わかりました」

 瞳は俄然張り切りだしていた。

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