第6話

「手が透けてる」


「生き返るんですよ。あなたがそう願ったから。本当はね、死にそうになった瞬間にその人は選べるんです。人生を諦めるか、続けるか。選べると言っても、自発的に選ぶというよりは、その人の深層心理から、どう思っているのか機械的に判定されるんです。生き返りたいと望んでいる人はここに来ることができません。ここにきた人はもう諦めることを選んだ人なんです。だから、ここに来た人はすぐに人生を買い取ってもらうべき人なんです。私も普段はここに来た人とは人生の売り方を考えるだけなんです。私は人生の売り方のアドバイザーとしてここにいるんです。ですから、今回私は少し出過ぎたことをしました。あなたに嘘をついたんです。ここで人生を売るか、生き返るか選べると。私は信じていたんです。あなたの中にはまだ生きたいという気持ちが少しでもあるのを。そしてその気持ちが芽生えればあなたはこの空間からいなくなって、生き返ることができます。今起こっている通りです。私、応援してますから。頑張ってください」


彼女は俺を信じていてくれたのだ。そしてそのおかげで俺はチャンスを得た。感謝してもしきれない。


「ありがとう。本当にありがとう。投げやりに生きてると言葉や感情って擦れていくんだな。自分でも忘れてたよ。今やっと思い出せた。ありがとう」


あっそういえば、と彼女はいった。俺は本格的に消えかけていた。


「ここにいた記憶は全てなくなってしまいます。あなたはこの出来事を全て忘れます。でも大丈夫そうですね」


 周りがぐにゃぐにゃと歪んでいるように見えた。もう時間が近い。


「頑張ってみるよ」


「あ、あともう一つ。路上ライブに毎回来るあの子。大切にしてあげてくださいね。彼女、あなたの……」

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