第4話
「まあ確かに本当っぽいけど。ちなみに『お金』はどれくらいもらえるんだ?」
「まあそうですね。来世に、あなたが生きていた時に嫉妬を感じてた人に嫉妬をさせられるくらいの人生を買うことができるくらいだと思います。もしかして売ろうとしてるんですか?」
「もう疲れたよ」
「本当にもったいないですね。これまで頑張ったのを全部捨てるようなものなんですよ。あなたの人生の成功の部分を他人に体験させて良いんですか」
「でも来世でいい人生を買えるんだろ。見返りがあるじゃないか」
「それでいいんですか。なんか私、あなたのことを買い被りすぎていたかもしれません。それで満足する人だったんですね」
「どう言うことだよ」
「あなたは今が辛くても未来にはきっと成功するんだと信じて、そのために頑張れたんですよね。そういうがむしゃらな思いで、ただ夢を叶えようとしてきたんですよね。ずっとずっと自分の夢にしがみついてきたんですよね。そういうところ、すごくかっこいいなって思ってたんです。ほら、あなたの人生が他の魂さんからとても人気があったんで、そんなに人気のある人生を送ることになる人ってどんな人なんだろうと思って、私あなたのこと見てたんですよ。そして凄いなって思ったりしてたんですよ。それなのにどうですか。あなた、あんなに真っ直ぐに信じてきた未来をそんな簡単に他人に渡せるんですね。何だか本当にがっかりです」
彼女の話す声のトーンが下がっていた。本当にがっかりしているようだった。俺は俺の中の気持ちが何か変化しているのを感じていた。
「確かに辛いよ。あんなに頑張ってきたんだからね。でも本当に疲れたんだ。自分で死のうとするくらいにはね」
聞いた彼女は改まった表情をして言った。本当によく表情が変わる。
「あなたは苦労や後悔、失ったものにばっかり目を向けていますよね。でも考えたことあります? 自分がもらってきたもの。例えばいるじゃないですか。あなたの路上ライブ、毎回見に来てくれる子。あなたは彼女を残して死のうとしたんですよ。あなたが死ぬことで彼女が悲しむなんてこと考えてなかったんでしょうね。でもよく考えてみればわかるはずです。あなたは誰かに幸せにしてもらっていて、あなたは誰かを幸せにしているんです。程度はどうであれ」
いつも見に来てくれる彼女のことを思い出そうとした。何だかよく思い出せなかった。そういえば彼女の名前も知らなかった。毎回来てくれているというのに。自分は見てこなかったのだ。自分の小さな幸福を。
ガクッと力が抜けそうになった。
ああ、そうか。俺には何も見えてなかったんだ。勝手に悪いところだけを見て勝手に悲しんでいたのだ。もはやそれがアイデンティティのようになっていた。
「俺、馬鹿みたいだな」
「そうですね。馬鹿なんでしょうね」
「馬鹿はないだろ。いや、自分で言ったんだけどさ」
何だかおかしな気分になっていた。泣きたいような笑いたいような怒りたいようなそんな気分だった。多分どれでもなくて、それでいて全部本当なんだろう。
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