第3話
「いやいや、あなたが才能ないって何言ってるんです? もしかしてあなた才能の意味知らないんじゃないんですか?」
大げさに話す彼女に少し苛立ってしまった。才能のことなんてどれだけ考えてきたか。
「知ってるよそんなの。ずっと悩んできた。あれだ、生まれ持ってうまく歌を歌える。良い曲を作れる。そう言うことだろ」
「はあ。やっぱり分かってないじゃないですか。あなた才能だ才能だ、って生きてる間ずっと考えてたんですよね。ずいぶん見当違いなこと考えてたんですね。才能っていうのはですね、まず何かをしたいと思えることなんですよ。そしてそれを続けようと思えることなんですよ。ほら、あんなに音楽続けられたのあなただけでしょ? それこそが才能なんですよ。歌がうまいとか良い曲を作れるとか、それは生まれつきのものがあるかもしれません。でも実はそんなの微々たるものです。いろんな人生を見てきた私が言うんだから本当です。結局、それが好きだと思えること、そして続けられることこそが才能なんです」
才能があるのだろうか。自分には。俺は彼女の話に聞き入ってしまっていたが、体に染み付いた卑屈のせいで全く逆のことを話していた。
「何か凄い胡散臭く聞こえる」
「本当ですって。あーあ教えてあげたいです。生まれつきのものがありながら成功できなかった何人もの人の人生を。そういえば今ギター持ってるってことはあれですよね。死ぬ時までギター持ってたんですよね。死んだときの服装や持ち物がこっちにも引き継がれるんですよ」
「まあそうだな」
そういえばギターを背負っていた。背負っている感覚が普通になっていて忘れていた。
「あなたは死ぬまでギターといようとしたんですよ。本当に凄い人です。だから諦めて欲しくないんです」
彼女は本当に真っ直ぐな目をしている。少し心が揺らぎそうになる。
「ちなみに人生を売ったらどんな感じになるんだ?」
「あなたの人生はこのままいけば成功するのでとても良い物件です。実はもう買取予約が来てるんです。ほら。実はあなたが生きてる時にも、色んな魂さんがあなたが死にそうになるのを待ってたんですよ。本当にひどい話ですけど、本人が死にそうになった時にしか買取のチャンスがありませんからね。あなたの人生を体験したいと思うのは分かりますし、死にそうになるのを待つ気持ちも分からないでもないです。ですからあなたの人生はすぐに売れるでしょうね」
彼女はパソコンをこちらに見せた。もう予約が数件入っていた。彼女の言葉に嘘はないようだった。
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