【第一部】第一章 再会


後を追おうとした影龍に向かって、再び、矢が飛んできた。

次々と飛んでくる矢を避けながら、影龍は、大きな杉の木に向かって飛んだ。

荒い息を吐きながら、辺りを見回す。

刀を構えた影龍に向かって、また、矢が飛んできた。


「チッ……!」


舌打ちをすると、刀で矢をはね除けた。

怪我をした足から、血が滲む。

一つの影がサッと、宙を駆ける。

ハッとした影龍は、後ろで気配を感じ、振り向いた。

その首に、ヒヤリと、冷たい刀をつけられ、影龍は、息を飲んだ。

赤茶色の髪を肩まで伸ばした男は、伊賀忍者、飛翔。

左目に、刀で切られた傷のある飛翔は、ニヤリと、口許に笑みを浮かべた。


「一緒に来てもらおうか?」


低く冷たい声が響く。

目を見開き、影龍は、飛翔の顔を見つめた。

首筋から胸元へ汗が流れ、冷たい空気が辺りを囲んだ。


 目隠しをされ、両腕を縛られた影龍は、古びた一軒家に連れてこられた。

天井の柱に、影龍を吊り下げると、飛翔は、目隠しを外した。


「久しぶりだな。」


飛翔の言葉に、影龍は、眉を寄せた。


「俺のことを忘れたとは、言わせぬぞ。この傷の借りを返す為、俺は、今日まで生きてきたのだ。」


左目の傷を差し、飛翔は、言った。

影龍は、プイッと、顔を背け、喉の奥で笑う。


「あまり弱い相手だったので、忘れておったわ。」


「何!」


眉を上げ、飛翔は、手に持っている竹の棒で、影龍の身体を打った。

唇を噛み締めると、それに耐え、影龍は、クスクスと、声を立て笑った。


「何が、おかしい?」


飛翔は、拳を握り締め、影龍を見つめる。

影龍は、ゆっくりと、顔を飛翔の方へ向け、唇の端を上げた。


「いや…何も。ただ、このようにしなくては、俺に勝てないとは、お前の腕も、たいしたことがない…と思ってな。」


「貴様………!!」


ギラリと、瞳を光らせると、飛翔は、竹を大きく振り上げ、力強く振り下ろした。

何度も、それを繰り返し、飛翔は、荒い息を吐きながら、ぐったりとした影龍を見つめる。

汗で、顔に張り付いた影龍の髪を掴み上げると、頬を平手で、2、3回打つ。

うっすらと、目を開けた影龍は、ペッと、口の中の血を吐く。

その血が飛翔の着物の襟につき、飛翔は、影龍の頬を片手で掴み、力をくわえた。

端正な影龍の顔が歪み、切れた唇の端から、血が流れ出す。

口の中にも、血が流れ込み、白い歯が赤く染まる。


「……飛翔。」


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