【第一部】第一章 再会


「夕飯の支度をしてこよう。」


立ち上がった光龍の手をそっと掴み、美雪は、静かに呟いた。


「私も、お手伝い致します。」


触れ合った手と手の温もりに、光龍は、心臓が早鐘のように鳴り、黙ったまま、小さく頷いた。

その二人の様子を天井裏で見つめている、一つの影があった。


 その夜。

皆が眠りにつき、屋敷内が静まり返った頃、暗い居間から、ぼんやりと、明かりがもれていた。

居間の棚にある木箱を開け、何かを探している人影が見える。

長い黒髪を乱し、黒い布で顔を隠した、その姿は、両目だけが刃物のように、光っていた。


箱の中から、一枚の紙を取り出し、開いて見る。

そこには、甲賀屋敷のことや甲賀の里のことが書いてあった。

その紙を胸元に入れた人影は、クルリと、後ろを振り向き、その場所から、立ち去ろうとした。

その時、目の前に、サッと、黒い影が下りてきた。

人影は、身構え、鋭い瞳で見つめる。


「胸元に入れた物を返してもらおうか?」


低く、掠れた声で、そう言うと、影は、素早く、顔を覆った人影の後ろに回った。

そして、布を取り、顔を見る。

その顔は、なんと、美雪だった。


「やはりな。あの二人を上手く騙したようだが…。伊賀者か?」


美雪は、影の方に、持っていた蝋燭を投げつける。

影は、それを避けると、居間を出て行こうとする美雪の後を追う。

美雪は、小刀を投げながら、木々を飛び越えて行く。

女にしては、動きが早く、かなりの腕だ。

影は、先回りをして、美雪の来るのを待った。


影を撒いたと、ホッとしていた美雪であったが、行く手に待っていた影に驚き、草の覆った地面に舞い降りた。

影も、草むらに身を隠し、相手の動きを待った。

月明かりが影の顔を照らす。


影は、影龍であった。

息を潜め、風にざわめく、草や木の音を聞く。

ザワッと、草が今までと違った音を立てる。

それを影龍は、見逃さなかった。

キッと、そちらの方を見ると、背にさした刀を鞘から抜き、飛びかかった。

美雪は、黒髪を乱し、草の上を転がる。

立ち上がり、駆けて行こうとした美雪の右肩を影龍は、切りつけた。

悲鳴を上げ、美雪は、その場に、踞る。


「そこまでだな。」


刀を首筋にあてられ、美雪は、観念したように、瞳を閉じた。

美雪の胸元から、紙を取り、影龍は、自分の着物の中になおす。

その時、どこからか、一本の矢が飛んできた。

その矢は、サッと、飛び退いた影龍の足元に刺さった。


「何奴!!」


影龍が矢に気を取られてる隙に、美雪は、その場を去った。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る