【第一部】第一章 再会
〈敵なのか?味方なのか?〉
微かに、血の臭いが漂ってきた。
「そこだ!!」
叫び、右側にある木の上へ、疾風は、飛んだ。
その木から、サッと、影が飛び出すのを疾風は、見逃さなかった。
影の脇腹へ飛びつき、クルリと、回転をすると、地面へ下りる。
素早く、相手の喉元に、小刀を押しつけた。
観念したかのように、下唇を噛み締めた相手を見て、疾風は、驚きに、目を見開いた。
「お…お前は…?!」
キッと、鋭い瞳で見つめる、その顔は、光龍と同じだった。
「影龍なのか!」
疾風の手が緩んだ隙に、影龍は、側を離れ、駆けて行こうとした。
しかし、足を怪我していた為、声を上げ、踞る。
「大丈夫か?!」
影龍を抱き寄せ、疾風は、言った。
左足の大腿部に、疾風の投げた小刀が刺さっていた。
「これは、いかん。早く、手当てをしなくては…。さぁ、掴まれ。」
背を向け、疾風が言うと、影龍は、顔を背け、小声で言った。
「俺に、構うな。」
「そうはいかぬ。破傷風にでもなったら、光龍に会わす顔がないからな。」
笑みを浮かべ、疾風は、そう言うと、影龍の身体を抱き上げた。
「よ、よせ。下ろしてくれ。」
驚き、声を上げた影龍をクスリと笑い、疾風は、更に力を入れ、抱き締めた。
影龍は、カッと、頬を赤くする。
「しっかり掴まっていろよ。急ぐからな。」
疾風は、木々を飛び、屋敷へ向かった。
屋敷の裏庭にある納屋に、影龍を運ぶと、疾風は、納屋を出て行き、屋敷の中に入り、酒と薬草を擂り潰したものを持って、再び、納屋へと、やってきた。
影龍の側に寄ると、着物の裾を捲り、傷口を見る。
10センチ程の傷は、かなり深く、新しい血が流れ出ている。
「少し、しみるが…我慢しろよ。」
そう言うと、酒を口に含み、傷口に勢いよく、吹きかけた。
影龍は、グッと、瞳を閉じ、痛みに耐えた。
酒で消毒をした後、薬を塗り、布を巻いた。
「傷が治るまで、ここに居ると良い。ここには、誰も来ないから、安心しろ。」
疾風は、立ち上がり、納屋を出て行こうとした。
影龍は、少し身を起こすと、小さく呟いた。
「ありがとう。」
その声に、口許に笑みを浮かべると、疾風は、振り向きもせず、手を振った。
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