【第一部】第一章 再会
「頭領に、バレなければ良いのだろう?」
「…しかし。」
「会いたくないのか?会って、そいつが影龍だということを確かめたくないのか?」
光龍は、しばらく考えていたが、コクッと、小さく頷いた。
疾風は、光龍の肩をポンと叩く。
「心配するな。責任は、俺がとる。」
「疾風…。」
軽く微笑み、光龍は、手鏡を胸元に入れた。二人は、十造がいないのを確かめ、屋敷を出ると、川へ向かった。
先程まで聞こえていた笛は、今は、もう聞こえない。
二人は、川上へと歩いて行った。
太陽が、ギラギラと照りつけ、二人の身体を汗が流れた。
「この辺だったと思うが…。」
辺りを見回し、呟いた光龍は、大きな桜の木を見つけた。
しかし、小屋は、跡形もなく、腐った材木が転がっていた。
「ここに、間違いない。しかし…小屋が…。」
「お前に見つかって、場所を変えたのだろう。」
光龍は、顔を曇らせ、うつ向く。疾風は、優しく、光龍の肩を抱き寄せる。
「そのような顔をするな。…笛は、毎日、この辺りから聞こえる。それに、奴は、お前が危ない時、必ず、現れる。その時、俺が捕まえてやるさ。」
疾風の言葉に頷くと、光龍は、軽く微笑んだ。
二人は、肩を寄せ、川下へと、歩いて行った。
それから、五日経った。相変わらず、蒸し暑い。
その中を愛馬の『一白(いちじろ)』に乗って、疾風は、山の中を走っていた。
山の頂まで来た疾風は、馬を下り、遠く小さく見える、甲賀の里を見下ろしていた。
その時、後ろの草むらから、ガサッと、音がした。
疾風は、胸元から、素早く小刀を出し、そちらへ向かって投げた。
手応えはあった。
血の臭いが風に乗って、鼻をついた。
疾風は、鋭い目付きで、そちらへ駆けて行き、相手を確かめた。
そこには、一匹の兎が倒れていた。
辺りを見ると、細い獣道に、血が点々と落ちていた。
「チッ…変わり身の術か…。」
呟き、疾風は、血の跡を追った。
血は、草むらを抜け、広い原野で、途切れていた。
ザワザワと騒ぐ、地面を覆った草。
辺りは、シーンと、静まり返っている。
その静けさが普通ではないことに、疾風は、気付いていた。
いる………!
確かに、息を潜め、こちらの動きを探っている。
息を殺し、疾風は、草むらに身を隠す。
〈どちらが先に、痺れを切らすか…我慢比べだ。〉
少しでも、隙を見せた方が負けである。
そこには、どちらかの死が確実にある。
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