【第一部】第一章 再会


心の優しい光龍は、戦うことを嫌っていた。

幼い頃に、両親を亡くした光龍は、頭領の十造に育てられた。

光龍には、双子である影龍がいるが、双子は、魔の使いと恐れられていた時代……彼等は、兄弟であって、一緒に暮らしたことはない。


光龍は、日の当たる自由な暮らしを……そして、影龍は、決して光を見ることのない、闇の暮らしを与えられた。

両親が死んだのも、弟と一緒に暮らせないのも、全て、戦いのせいだと思っている。


この戦いの時代には、あまりにも優し過ぎる光龍が、疾風は、哀れでならなかった。


光龍は、綺麗な飾りのついた手鏡を取り出す。


「…私は、一度、影龍に会ったことがあるのだよ。」


「えっ?」


疾風は、小さく声を上げた。光龍は、懐かしそうに、手鏡を撫でながら、話し出した。


「三年前…里に用があって、出掛けた時だった。」




それは、三年前。里から帰る途中、川の近くを馬で通りかかった時、どこからか、美しい笛の音が聞こえてきた。

その、あまりにも美しい音色に、光龍は、馬を下り、そちらへ向かった。


川岸を川上の方へ歩いて行くと、古びた小屋があり、小屋の横には、大きな桜の木が立っていた。

その木の根元で、一人の少年が笛を吹いていた。

それが、影龍だったのだ。

光龍は、その少年を見て、すぐに弟の影龍だと分かった。

自分と同じ顔をした少年を前に、光龍は、しばらくの間、動けずにいた。

光龍の視線に気付き、影龍は、笛を吹くのをやめた。


「あっ…す、すまぬ。あまり美しい音なので…。」


光龍が、そう言うと、影龍は、黙ったまま立ち上がり、小屋の中へ入ろうとした。

光龍は、慌てて側へ行こうとして、足を滑らせ、転んでしまった。

そのままの姿で、光龍は、尋ねる。


「ま…待ってくれ。お前は…影龍なのだろう?」


光龍の言葉に、ピクッと、眉を上げたが、静かな声で、影龍は、言った。


「人違いだ。…それより、ここは、あんたの来るような所ではない。二度と来てはならぬ。」


そこまで言うと、小屋の戸を開け、影龍は、中へ入って行った。

光龍は、立ち上がり、フッと、足元を見て、手鏡が落ちているのに気付き、それをそっと拾った。




「彼は、否定したが…あれは、間違いなく影龍だ。」


話を聞き、疾風は、腕を組む。

そして、少し考えると、光龍に、こう言った。


「もう一度、そいつに会いたいと思わぬか?」


「えっ?…しかし…。あの場所は、頭領にも、行ってはならぬと、きつく言われているのだ。」


溜め息混じりに言う光龍に、片目を閉じる疾風。


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