【第一部】第一章 再会
時は戦国。同じ赤い血の流れる人間同志。憎み合い、殺し合った時代。
その中を影のように生きてきた者達がいた。
それは、忍び。
彼等も多くの仲間を失い、自らも傷付いていた。
今年の夏は、特別に暑い。太陽は、狂ったように照り輝き、風は、生暖かい空気を運んでくる。ー文月上旬。
ここは、甲賀の里。
里から離れた山中に、甲賀忍者の屋敷があった。
屋敷の近くにある川から、美しい笛の音色が響いてくる。
裏庭で、薪を割っていた疾風は、手を止め、その音を聞いていた。
毎日、聞こえる、この笛の音……。
誰が吹いているのかは分からないが、疾風は、この笛の音色が好きだった。
優しく、透き通るような不思議な音色だ。
疾風は、斧を切り株の上に置くと、川の方へ向かおうとした。
その時、屋敷の中から、疾風を呼ぶ、光龍の声が聞こえ、疾風は、小さく舌打ちをすると、縁側から中へ入る。
声のする部屋へ向かうと、光龍が棚の上の荷物を取ろうと、踏み台に立っていた。
ユラユラと揺れる光龍の身体を支え、疾風は、尋ねる。
「何をしているのだ?」
「あの赤い箱を取りたいのだが…あと少し…届かなくて…。すまぬが、取ってくれぬか?」
にっこりと微笑む光龍に軽く笑い、疾風は、その箱をスッと、簡単に取った。
「ほらっ。」
「ありがとう。助かったよ。」
疾風から箱を受け取り、光龍は、礼を言った。箱の中には、何か入っているらしく、カタカタと音がする。
「何が入っているのだ?」
その言葉に、光龍は、口許に笑みを浮かべた。
「私の宝物だ。」
机の上に箱を置くと、蓋を開け、疾風に中を見せる。
そこには、金や銀の鈴、美しい細工のかんざし、櫛、手鏡などがあった。
疾風は、少し眉を寄せ、呟く。
「これが、お前の宝か?」
「男が、このような物……。おかしいだろう?」
少し寂しげに笑った光龍を見て、疾風は、息を飲んだ。
光龍は、金と銀の鈴を取り出し、疾風に渡す。
「それは、お前にやるよ。気持ちが沈んでいる時など、その音を聞くと、心が落ち着く。」
「良いのか?大事な物なのだろう?」
「お前に、持っていて欲しいのだ。」
優しい光龍の微笑みは、どこか寂しげで、疾風は、心が痛んだ。
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