第2話:冒険者ギルドの受付

「ようフラウ、明日助っ人を頼めないか?」


「ごめん、明日は先約があるのよ。

 生きて戻ったら、その時また声をかけてよ」


「分かった、だが先に声をかけたのは覚えておいてくれよ」


 気さくに声をかけてくれる冒険者達に返事をしながら、大ダンジョンから冒険者ギルドに急ぐ。

 故郷を出て一年、もう私もすっかり冒険者家業が板についた。

 普段はソロで勝手気ままに大ダンジョンに潜っているが、頼まれればパーティーを組んで奥深くまで潜ることもある。


 本当はソロでも最下層の大ボスを斃せるのだが、そんな事をすると一カ月もダンジョンが休眠してしまい、毎日低層階で狩りをして生活をしている、駆けだしとロートルが餓死してしまうかもしれないので、大ボス狩らないようにしている。

 どうしても大ボスの素材が欲しい時は、手足を切り取って持ち帰ればいい。


「よう、ジャネル、今日も清算を頼むよ」


「ああ、今日戻って来てくれたのね、よかったは、フラウ

 今日中にジャックの店のツケを払わなければいけなかったのよ」


 ジャネルは冒険者ギルドの受付の中でもかなりベテランになる。

 冒険者ギルドの受付も競争社会のようで、担当の冒険者の稼ぎによって歩合が違ってくるようだ。

 残念だがジャネルの年齢と容姿では、多くの冒険者を担当にすることができず、年々収入が減っているようだ。


「いい加減生活を改めないと、いずれ野垂れ死にするぞ」


 お節介なのは分かっているが、多少でも縁のできた者が野垂れ死にするかもしれないのを、見逃す事はできない。

 私がここで狩りをしている間はいいが、追手が来れば逃げなければいけない。

 返り討ちするのは簡単だが、王命で無理矢理追手に選ばれた善良な騎士や兵士が相手だと、殺せなくなってしまうかもしれない。


「それは分かっているだけどさ、独りだと寂しくてね……」


 ロートルの冒険者の話では、ジャネルには相思相愛の冒険者がいたそうだ。

 美男子ではなかったが、堅実で人の好い中堅どころの剣士だったらしい。

 それが、身勝手で無茶ばかりするリーダーの判断ミスで、強力な魔獣に囲まれてしまい、仲間の盾になった恋人だけが生きて帰らなかったそうだ。

 それ以来ジャネルは仕事の時以外は酒浸りになっている。


 だが、これは表の話で、裏の話は違うらしい。

 若い頃のジャネルはとびっきりの美貌で、身勝手なリーダーが横恋慕して、恋人を罠に嵌めて魔獣に襲わせたというのだ。

 今では大ダンジョンでも有数の冒険パーティーのリーダーになっていて、私がここに来るまでは、勇者に最も近いと言われているいた男だ。


 この国の普通の女なら、死んだ恋人に操など立てずに、新しい恋人を見つける。

 そうしなければいけないほど、この世界は生きていくのが厳しい。

 だが、ジャネルは違った。

 恋人に操をたてて、呪いの魔法薬で自分の容姿を醜くした。


「分かったわよ、今日は私が奢るから、パーっと飲み食いしようか?」


「え、いいの、だったら直ぐに帰る用意するから待っててよ」


「それはダメよ、ジャネル。

 貴女を指名してくれる大ベテランがそろそろ帰ってくる頃よ。

 あの人達にも奢るから、それまでちゃんと仕事しなさい」

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