転生聖女は、つがいではないと王太子に婚約破棄追放されました。

克全

第1話:婚約破棄

「よくも今日まで私を騙してくれたな、絶対に許さぬ。

 コロンビア公爵家令嬢フラウ、お前との婚約を破棄して追放に処す。

 何か文句はあるか!?」


 元婚約者のゲッセル王太子が憎々しげに私を見ています。

 その両側には、妖艶な身体と百戦錬磨の性技で王太子を籠絡した、双子の悪女ミネバとクシリアが厭らしい笑顔を浮かべています。

 完全勝利を確信しているのでしょうが、そうはいきません。

 最後に一発かましてあげましょう。


「いえ、愚かで自堕落な貴男との婚約が解消できたこと、腐りきったこの国から出ていける事、感謝の言葉もありません。

 邪魔な私に刺客を放ち、毒殺しようとしたのでしょうが、神々は全て見ておられるのですよ。

 幸運にも毒のお陰で体質が変わり、愚者のつがいから解放されたので、これからは自由に生きていきますわ」


 私が意気消沈して、慈悲を乞うと思っていた王太子達は、予想外の啖呵を喰らって、鳩が豆鉄砲を食ったように驚いています。

 特に双子の悪女は、自分達が放った刺客が毒殺できなかったと思い、この言い掛かりを考えたので、本当に私が王太子のつがいではなくなっているとは、思ってもいなかったようです。


「おのれ、おのれ、おのれ!

 王太子の私に対してその悪口雑言、断じて許さぬ!

 近衛騎士、この無礼者を不敬罪で殺してしまえ!」


 王太子が怒り狂って警護の近衛騎士に命令しましたが、誰も動きません。

 いえ、動けないというのが本当の所ですね。

 過去にも王太子は、短慮で何人もの側近や令嬢を無礼討ちにさせていますが、後々それが問題になった時、自分は命令していないと言って、近衛騎士に責任を負わせてしまった前科が数多くあるのです。


「何をグズグズしている、私の命令を聞けないならお前達も追放するぞ!」


 王太子の顔が醜く歪み、瞳には狂気が宿っています。

 この状態の王太子に逆らえば、剣を抜いて懲罰を与えようとするのは有名です。

 王太子の実力では、近衛騎士を斬る事など絶対に不可能です。

 ですが、近衛騎士は反撃する事もできなければ、避けて逃げ出す事もできません。

 家族や領民を護るためには、殺されるか命令に従うしかないのです。


「フラウ嬢、許されよ」


 当番の近衛騎士長が、血を吐くような苦し気な声色で言葉を吐き出しましいた。

 騎士の誇りにかけて、婦女子を斬るのは嫌だが、家族領民のために私を斬る覚悟を決めたのでしょう。

 今回は運がよかったのか悪かったのか、腐りきったこの国で、まだ騎士道精神を残した者に出会えました。


「いいえ、大丈夫ですよ、謝るには及びませんよ。

 王太子、腐れ悪女、自分達の罪を思い知りなさい!」


 私は神速の足さばきで三人に近づき、微妙な力加減をして平手打ちを喰らわしましたが、その破壊力は凄まじく、下顎骨を粉砕骨折させました。

 その介達力も常識外の破壊力で、脳細胞を著しく損傷させました。

 殺さないように加減しましたが、廃人にはして差し上げました。

 これで悪女二人に殺された、この身体の元の持ち主の恨みも、多少は晴らされるでしょう。


「では、私はこの国を去らせていただきますね。

 ちなみに私はこの国の聖女に選ばれていますので、聖女を失ったこの国は未曾有の天災が連発して滅ぶことでしょう。

 皆様も早くこの国から逃げられた方がいいですよ。

 では私はこれで失礼させていただきます、ごきげんよう」


 私は神々から授かった能力の一つ、転移魔法で王宮から出て行きました。

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