5-7 王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい

 ウィル・ザザーリスを部屋から送り出してから少しだけ考えた。


「……参ったな」


 これまで閣下に言われるがまま、仕事をこなしてきた。中には危険な仕事もあったけれど、自分が持っている力を全て利用して達成してきた。順調過ぎたと思う。

 全貌が見えない組織の中でも飛び抜けた速さで昇進を重ねた。

 

 エマ王女の件――もしかしたら、俺は地雷を踏んだのかもしれない。


「……考えたって仕方がないか。俺だって人には言えないことをしているんだ――」


 そもそも俺の本名はイトセ・オルゴットじゃない。

 この名前は閣下から与えられた名前だ。過去の全てを捨てるために与えられた名前。あの日から俺は秘密を押し殺して生きてきた。

 元の名前は、ローマンの王家転覆を企んだとして呪われている。


 なんにせよ、エマ王女の真意を探る必要がある。

 戦技ヴァジュラを通じて、ウィルにあの人を殺せだなんて信じられないけど……ウィルのあの困惑っぷりを見ていると真実なんだろう。


 それに、ここでウィルの機嫌を取っとくのも悪くないんだ。

 これから始まる長い2年生の学園生活、何だかんだ言ってあいつはクラスの権力者だ。俺だっていつまでも子供じゃない。利用できるものは利用しなければ、このウェストミンスター校では生き残ればない。


 だから、俺は利用する。


「――起きてるか、ハレルド」


 隣の部屋。俺と同じ男爵家ヴァロンでありながら、絶大な力で学年でも確固たる地位を築いているハレルド・ハールディ。暗闇の中でベッドの上でいびきをかいて眠っていたあいつの大きな身体を揺さぶった。


 あいつはベッドの上で迷惑そうに眼を開いて俺を見た。


「こんな時間に悪いな。だけど、お前に頼みたいことがあるんだ」


「……何の用や」


「今から女子寮に忍び込む。手を貸してくれ」

 

 するとハレルドは真面目な顔で、もう一度言ってくれと呟いた。どうやらまだ夢を見ていると勘違いしたらしい。夢だったらいいんだけどな、夢じゃない。

 だから俺は言ってやった。はっきりと。


「女子寮に忍び込む。今すぐだ――お前も来い」




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