5-2 王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい
「エマちゃん、ほんとなの!? あのタイウォン様と婚約なんて――」
青ざめるエマ王女とは対照的に、甲高い声を上げるのはエマ王女の友人たちだ。
「信じられない! おめでとう、エマちゃん! 羨ましいわ!」
これでも俺は学園の有名人について人並みには詳しいって自負がある。
そして、今。
エマ王女の婚約者と名乗った男はウェストミンスター校で名が広れた男だった。
「だけど、タイウォン様! まだお体の調子が良くないって聞きましたわ!」
「ええ、まだ病み上がりでね。エマ王女殿下、挨拶はまた今度にしましょう? なあに、時間はたっぷりあるわけですから」
タイウォン・グレイジョイといえば、まさに優等生の鏡。貴族としても恵まれた家系に生まれながら、それを鼻にかけることもなく謙虚に努力を続けている。
他の学校なら当たり前のことかもしれないが、このウェストミンスターにおいて謙虚という性格はそれだけで異質なんだ。
外見も良くて、悪い噂も聞かない。難点があるとすれば父親の存在。グレイジョイ侯爵の悪い噂、だけどそれは先輩の後ろに協力な後ろ盾があるともいえる。
エマ王女の婚約者、自分でそう言いだして、クラスメイトが祝福するぐらいの良い人、それがこの先輩がウェストミンスター校で確立した人物像。
「ああ、そうだ。エマ王女殿下。もし宜しければ、今度父上の病床にも顔を出して下さい。きっとあの人は喜ぶ筈だ。何しろ、私と王女の婚約を誰よりも喜んでいたのは父上なのですからね」
そう言って、茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばす先輩。
なのにエマ王女は茫然と立っていた。その気持ちを代弁するとすれば『どうして』だろうか。
エマ王女の誘拐を画策したグレイジョイ侯爵がどうなったのかを俺は知らない。奴の息子である先輩も授業に出ることもなく、ずっと欠席していたって話だ。
「エマ王女――」
声を掛けようとした。俺がこの場にいるのは、エマ王女と二人で話したいことがあったからだ。だけど、またしても俺の意識は別の人物に向けられる。
後ろから肩がぽんと叩かれた。気配に気づくことも出来なかった。
それに何より、俺の身体に触れた者が零した言葉に戦慄した。小さな声で、俺にだけ聞こえるように調整された秘密の言葉。
「……てめえはウェストミンスターの工作員だ。それもかなり序列が上のな」
エマ王女の次は、今度は俺が固まる番だった。
中庭にやってきたタイウォン・グレイジョイの傍にいた男、どうして俺は気付かなった。俺はその姿に見覚えがあったのに。
「話がある。深夜二時――噴水広場に一人で来い」
振り返った先に、ズボンに片手を入れてひらひらと手を振る男の後ろ姿。くねくねとした黒い癖っ毛の奴は、エマ王女誘拐の際に陣頭指揮を取っていた男だ。
グレイジョイ侯爵から大金で雇われていながら、俺相手に勝ち目が無いと悟ると、戦うことなくあの場を去ったプロの戦闘屋がそこにいた。
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