5-3 王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい
夜になると、約束の場所にあの二人が俺待っていた。
深夜のウェストミンスター校は意外と静かだ。どんちゃん騒ぎで五月蠅い生徒は一人もいない。誰もが当たり前に貴族として相応しい振る舞いをして、規則正しい毎日を送っている。
「よく来たね、オルゴット君。素晴らしい勇気だ」
とびきり生活態度の良さそうな上級生が一人、俺を待っていた。グレイジョイ先輩だ。あの人は相変わらず人好きのする柔らかな笑みを浮かべ、傍らにはあいつの姿もある。物騒な戦闘屋。
「物騒な真似はしないよ。私は平和主義だから」
――俺の正体がばれた。別にそれ自体はどうでもいい。俺から組織が知られることはない。だって俺ですら組織の詳しい内情について何も知らないんだから。それにあの戦闘屋を雇っているグレイジョイ先輩も、俺には興味も無さそうだ。
「それで君を呼び出した理由だけど、それはね」
先輩、タイウォン・グレイジョイの要求はたった一言で分かるものだった。
「私の婚約者から手を引てもらえないか。つまり、そうだな。彼女の身に何が起きても、君は関わらないで欲しいんだ」
思わず身体に力が入った。
何が起きてもって、随分と物騒な言葉だ。お前はエマ王女に何をするつもりなんだ。
「おおっと! 誤解してるぜ。イトセ・オルゴット! 坊ちゃんの言葉は最後まで聞くべきだ! 坊ちゃんは別に王女様に危害を加えるつもりはない、ついでにお前を恨んでもいないぞ!」
そう言ったのは、グレイジョイ先輩を守るように立つプロの戦闘屋だ。
油断なく俺を見据えている。だけど、こいつは一度俺の前から逃げた男。俺の中ではもう格付けが済んでいる。ただ、何をするか分からない。金でグレイジョイ侯爵に雇われていた男だ。金を与えられれば何でもするだろう。
「オルゴット君。君を恨んでいないという言葉は本当だ。父上のことは残念だったけれど、あの人がやろうとした行いは到底褒められたものじゃないからね」
そう言ってグレイジョイは相変わらずの人好きのする笑みを浮かべた。参ったな、腹の中で何を考えているのかは読み取れない。
「ずっと学園を休んでいたのは、家の問題を片付けるためだった。父上が心を病んでしまったからね、大変だったよ。でもお陰で父上から家督を譲られることになった。予定よりもずっと早い。だけど、私がウェストミンスター校を休んでいた理由はそれだけじゃない」
「……」
「私は知りたかったんだ。父上がどうしてエマ王女にあのような愚かな行いをしたのか、それを探るための時間が必要だったんだ」
そんなの分かり切っている。エマ王女には
「違う。それは誤解だよ、オルゴット君。父上は確かに悪人だが、
この人は俺を呼び出して一体何が言いたいのか。
俺だって貴重な睡眠時間を削ってこの場にいるのだ。結論の見えない会話に付き合っている時間なんてない。
「父上は僕を愛していた。確かに伴侶の
「……グレイジョイ先輩、本題に入ってください」
「誰もが王女の可憐な外見に騙されている。彼女は君が思うよりも曲者だ」
その時、風が通り過ぎた。ピンク色の花びらだ。風に飛ばされた葉は夜桜のようにゆっくりと地面に落ちて、グレイジョイ先輩は目を細めて言った。
「恐らく、エマ王女は
傍らに立つプロの戦闘屋は自らの身体を両腕で抱きしめて、「おー、こわ」と呟いた。
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