5-4 王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい
いつもの日常が帰ってきた。俺は悩みを吹き飛ばすようにして、いつも以上に
「勝者、イトセ・オルゴット。敗者は速やかに外へ、次の予定も埋まっている! イトセ・オルゴットはそのまま待機、準備が整い次第、速やかに始める!」
担当技官へ出来るだけ多くの戦技を入れてもらえるように要望した。あれから考えたけど、俺の目的はウェストミンスターで首席になることだ。もうエマ王女の依頼は終わっている。いつまでの過去の依頼に構っているわけにはいかない。
次の対戦相手がやってくる。今日はこれで3試合目だ。
「バラン・モリアード、準備はいいか」
「もっちろん!
相手は上級生。確か
「先輩――よろしくお願いします」
「礼儀がいいじゃねえか、ウェストミンスターの生徒にしておくには惜しいぐらいだ! ここには馬鹿しかいないからなあ!」
タイウォン・グレイジョイが学園に復帰した翌日、エマ王女の欠席が再び始まった。クラスメイトはエマ王女が体調を崩したのか心配をしているようだったけど、誰も事情は知らない。俺だってそうだ。もう俺が関わっていい問題じゃない。
閣下には既に伝えている。あのままエマ王女を騙し続けていれば、よくないことが起こる。それは直観だった。閣下からは暫く休めと言われている。
ウェストミンスターでの生活に集中しろと。
エマ王女が魔術個性に目覚めていようがいまいが俺には関係はない。俺がエマ王女に残している未練はあの勘違いを解くことだけ。
既に決めていた。エマ王女がクラスに戻ってきたら、俺は彼女を呼び出す。そしてエマ王女のことを好きでも何でもないことをはっきりと伝える。それだけだ。
「どこを見てやがる、
隣の会場でも俺と同じように連戦連勝を続けている人がいる。タイウォン・グレイジョイ、俺にエマ王女の秘密を伝えてきた人だ。あの日からグレイジョイ先輩は、俺と廊下や敷地の中ですれ違うとにこやかに話しかけてくるようになった。
「
うお。身体の感覚が乱される。重たい鎧を着込んだみたいに、身体の切れが悪くなった。なるほど、そういう
「
この人、太っているのに意外とすばしっこい。目の前をすっと、先輩の蹴りが通り過ぎた。あっぶな。肉弾戦が得意な人か。こうやって、向こうから近づいてくる相手も久しぶりだ。同級生は皆、俺に近づかせないように必死だったからな。
「そういえば、
タイウォン・グレイジョイの復学に合わせて、エマ王女が授業を欠席するようになった。別にそれはどうでもいい。
だけど、俺の頭にちらつくのはグレイジョイ先輩があの夜に語った内容だ。
『オルゴット君。このローマンという国で王族に生まれた以上、
エマ王女が魔術個性に目覚めていると語った元婚約者は、それだけじゃ足りないというように、俺の知らないエマ王女の姿を俺に語ってみせた。
グレイジョイ先輩の口から出てくる彼女の姿。
それは俺が知るエマ王女とは大きく違っていた。先輩の語るエマ王女の行動はまるで子供の物語に出てくる残酷な魔女だ。
『
自分の目的を遂行するためなら平気で誰かを蹴落とせるような、俺がこの世で最も苦手な人種。
『私の父上は一人のローマン王族に肩入れしていてね。エマ王女が完全な
勿論、俺は信じない。
グレイジョイ先輩とエマ王女のどちらを信じるかなんて決まっている。あの人はエマ王女を誘拐しようとしたグレイジョイ侯爵の息子だ。
その日の戦績は4戦4勝。上級生相手でも問題なく圧勝出来たことにほっとする。夜になったらハレルドの部屋に行って下らない話をして、一日を終えた。だけど頭の中にずっと彼女の影がちらついて仕方が無い。
「……」
深夜のことだ。俺の部屋を控えめにノックする音。
どうせハレルドだろうと緊張感もなく扉を開いたら、そこにいたのは予想外の男だった。
「オルゴット、お前に聞きたいことがあるのだが……エマ王女の件だ……」
ウィル・ザザーリス。クラスの中で最も俺を敵視する
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