5ー20 王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい

 頭上から大きな力が振ってきた。 

 それは俺と刺客の間を真っ直ぐ切り裂いただけじゃない。

 黒穴すらも切り裂いたのだ。思わず身体が硬直した。

 

 ……何、今の?

 光が溢れ、刺客の姿が露わになった。

 三人目の目にも狼狽の色。無理もないさ。俺だって、動揺している。


「エマ王女、苦情は後で」

「え?」


 彼女の身体を再び黒穴の中に放り投げた。


「ちょっと! ひどい!」

 

 後で幾らでも謝るからさ、今は勘弁してくれ。


 落ちてきた大きな力。

 頭の上に誰がいるのか確認する余裕は無かった。(何となく予想はついたけれど。ウェストミンスターに入学してから、何百回あの罵声を聞いたか分からない)


 でも、刺客は未だ健在。奴は数歩下がり、ゆっくりと口を開いた。


「宣告する。お前では、俺には勝てない」


 俺が仕留めた二人目、あいつから隊長と呼ばれていた男。

 素性を隠す黒頭巾、忍者のようなスタイル。

 何だよ。黒穴の中では伝説の暗殺者かと思ったが多分、偽物だな。質の悪いコスプレにしか見えない。伝説の暗殺者にはファンが多い、こいつは模倣者だ。

 

「そっくり返す」


 着弾地点から半径3メートル程度、黒穴が消えていた。

 光が溢れ、全てが見えた。途端湧き上がる絶対の自信。


 別にこいつが伝説の暗殺者じゃないと分かったからじゃない。

 ユリウス王子が選んだプロの戦闘屋だ。相当の力量なんだろうが、敵の姿がはっきりと目視出来るこの環境で、俺が負ける未来は想像出来ない。


「――掛かってこい」


 奴は俺の身体をめがけて突進を開始。黒穴の中に放り込んだ彼女には目もくれないその姿勢。エマ王女より先に邪魔な俺を消すつもりか。


 冷静な判断、俺は自分の身を犠牲にしても彼女を守るつもりだからな。


 俺の心臓に目がけ、差し出される突き。

 早く、正確無比。直撃すれば即死。

 並の相手なら、これだけで終わる攻撃。奴の顔も、勝利を確信していた。

 

「遅い」


 ギリギリのところで左足を後ろへずらす。

 高速の突きを躱すと奴の身体、重心が僅かに崩れた。

 別に何ら気にするものじゃないけど、俺にとっては致命的な隙。


「俺を舐めすぎ」


 肘を使って奴が持つ凶器を叩き落とす。

 そのまま脇で奴の腕ごと挟み込んだ。


「逃げられないだろ?」


 俺の動きが黒穴の時と変質したことに、三人目は気付いたのだろう。


 確固たる自信がある。

 光が満ちている、そして近接戦闘。

 この2つの条件が揃う相手なら、俺は例え伝説の暗殺者にも負けないって自信が。


「ッ!」


 さすがプロの戦闘屋。

 素早く、体制を整えようとするけれど。

 でも遅いんだよ。


「ッッ!!!」


 それにその動きはブラフだろ?


「死ねッ!」


 ほら、やっぱりな。

 俺の顔面に向かって三人目の刺客が蹴りを放つ。

 卓越した経験、技量は達人の域に届いている。ウェストミンスター校の生徒だったら、10人が束になっても相手にならないだろう。


 避けると、ぱさりと前髪が数本散う。

 それぐらい鋭い蹴りだったということ。でも。


「目的はこっちだろ?」


 地面に落ちた凶器を拾いたいって目的がバレバレなんだよ。

 奴の腕を挟んだ反対の手で、その足首を掴む。


 刺客は動揺している。俺が蹴り上げた凶器はクルクルと宙を舞い、再び地面に落ちた。奴の位置から絶妙に拾い上げられない位置へ。


「ウェストミンスターの学生ではないのか……」


 信じられないって、そんな表情が堪らない。


「何故、お前のような人間がいるのだ……」 


 刺すような殺気は既に霧散していた。

 達人なら分かるだろう。たった数度の攻防でも、俺に勝てないってことだ。


「生徒だよ。自慢じゃないが、多分、学内で一番嫌われている男爵家ヴァロンだ――」


 相手の心を折る圧倒的な力の差を見せつけて、俺はこの場を制圧した。




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