4-7 腹黒王女は恋に落ちている(エマ王女視点)

 人生はいつだって思い通りにはいかないものだ。

 ウェストミンスター校の学長が提案した課外活動型の戦技ヴァジュラ、それはエマ・サティ・ローマンにとって天からの啓示だった。


 彼女は召使の少女と共にどうやったら彼と同じチームになれるか頭を悩まし、結論を出した。仕切りたがり屋の公爵家デューク、ウィル・ザザーリスへ脅迫を実行した。放課後に彼をたった一人で呼び出して、彼と同じチームにするよう脅しを掛けた。

 

 エマの行動を誰も信じないだろう――当事者である哀れなウィルを除いて。


「ねえ、エマちゃん。さっきのイトセ君の言葉、どう思う? 自分には恋をする余裕なんてないなんて絶対嘘だよね~」 


 日が沈み、普段のエマならベッドの中で幸せな妄想に浸っている時間帯だ。

 同じベッドで寝そべる小柄の同級生はお喋りが止まることはない。根っから喋ることが好きなんだろう。身体よりも先に口から生まれたのかと思うほど。

 それにエマが羨ましいと思う程に、可愛さの塊であった。


「イトセ君だって気になってるはずだよ~。ほら、うちのクラスって、可愛い子多いし! ウェストミンスターだからかっこいい人は少ないんだけどね――」


 邸宅の中に到着してすぐのことだ。

 ジナが始めた恋バナに彼は不満ありありの表情をしていた。今はそんな下らない話をする暇はないと、彼の表情が訴えていた。だけど、ジナは強引に押し通した。


「ねね、エマちゃん。イトセ君はどんな女の子がタイプだと思う?」


 恋には障害がつきものだ。だからって、これはない。

 仕切りたがりのウィルにはもう一人、同じ女の子を同じチームに加えるよう脅しておいた。でも、どうしてこの子なのか――他にも適任の女の子はいただろう。 


 イトセ・オルゴットの中で、エマの評価が上がるようなぱっとしない女の子が!


「ねえエマちゃん、考えごと~?」

「あ、ごめんなさいジナちゃん……ちょっと、ね。ほら、本当にあの人一人に見張りを任せていいのかしら……私、ちょっと見てこようかしら……?」

「えー! イトセ君が折角一人で寝ずの見張りをするって言ったんだから、邪魔しちゃだめだよー! それにエマちゃんが傍にいったら、イトセ君も緊張しちゃうって!」

「……そ、そうね」


 エマはベッドの上で寝返りを打ってジナ・ユーセイに背を向けた。エマの身を包む上品な白いパジャマ。本来は彼にお披露目するつもりだったのだ。


 歯ぎしりをするなんて、王女らしくありませんよ?


 今の姿を召使の少女に見られたらそういわれるだろう。


 ジナ・ユーセイ。

 ――同じチームの女の子、彼女が問題だった。この戦技ヴァジュラに必要のない物ばかりを持ち込んでイトセ君を困らせた。

 それだけでエマにとっては万死に値する出来事だ。


 エマは勿論、イトセ・オルゴットが好みそうな物を鞄の中に幾つも潜ませてある。綺麗好きなあの人のために、手のひらに収まる掃除道具だって用意した。


 エマ・サティ・ローマンは腹黒だ。

 誰も知らないが、彼女は欲しい物を手に入れるためなら何だってやる。諸国へ強大な軍事力を用いて我儘な要求を繰り返すローマンの王族として正しく成長していると言っていい。そして王族の中でもエマは際立っていた。


 ――ローマンの民に好かれる人柄・容姿を完璧に演じきり、5歳の頃からローマン王族の中でもピカ一の人気を保っているのだから。

 

「ていうか、エマちゃんは分かって無さすぎだよ~! 男爵家ヴァロンのイトセ君が進級するなら、戦技ヴァジュラで際立った成績を残す成績を残すしかないのに、私たちが邪魔をしたら駄目っ!」

「じ、ジナちゃんは……他の男の子にも……そんな感じなの?」

「えー! 違うよ、イトセ君だけだよ! あの人は特別だから――!

「……彼は幸せ者ね……こんな可愛い子に思ってもらえて……」


 そう取り繕って見せたけど、エマの心は熱く煮えたぎっていた。


 ――こんの、アバズレ公爵家がッ! 何で私の前でも可愛い子ぶってるのよッ!

 あんたよりも、私の方が彼のことを百倍知ってるのよ! 王族としての立場があるから、私が自由に行動出来ないからって好きにしやがってっ!


 勿論、声にも表情にも出さない。心の中で何を思おうと全て、エマの自由だ。

 

「エマちゃんは好きな人とかいないの~?」

「……いないわ……私は王族だから……ジナちゃんも知ってるでしょ? ローマンの王族には特別な言い伝えがあって、自由な恋愛が出来ないこと……」

「あ! 知ってるよ~! ローマンの白狼伝説! え、やっぱりそうなんだ~、じゃあジナがエマちゃんの代わりに一杯恋愛してあげる!」


 ――この小娘、殴る。ああ、むかつく。むかつくわ。

 今日だって、あれを思い出すだけでエマの心はマグナのように煮え滾るのだ。


 ジナは馬車の中で、エマの前で、イトセ・オルゴットに抱き着いてみせた。

 暗闇の中でエマを救い出してくれた大好きな人。今まではエマの妄想の中にしか現れてくれなかったヒーローを相手に、自分がとても出来ないイチャツキっぷりを披露してくれたのだ。

   

 あの時は反射的に手が出るかと思ったぐらい。

 だけど彼女の在り方はいつだって王族ロイヤルとして完璧――エマは、怒りを抑えた自分の理性を褒め称えたいぐらいだった。



――――――――――――――――――

閣下(ダン・ウェストミンスター)の設定を弄ります(男性→妙齢の女性)

外見詐欺の妙齢に変更。今日、明日で本文修正します。


【読者の皆様へお願い】

作品を読んで『面白い予感』と思われた方は、下にある★三つや作品フォロー頂けると嬉しいです。モチベーションアップに繋がって更新早くなります!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る