4-16 仮面のお嬢様

 ウェストミンスター校に向かう馬車の中で、俺と同じチームになった二人は疲れ切った身体を毛布にくるみ、ぐったりと身体を休めている。


 俺も身体だって極度の疲労を訴えている。

 寮の自室に戻ったら寝る。それ以外は考えられなかった。


「……」


 でも結果だけ見ればウェストミンスター校2年C組でチーム分けの采配を振るったウィルの手腕は確かだった。この戦技ヴァジュラは俺の都合も兼ねていた。


 俺と同じチームになるクラスメイトは、エマ王女とジナ様のように俺の言う通りに動いてくれる二人が適任だった。

 他のクラスメイトだったら、俺の意見なんか聞かず勝手に動くだろうから。


 もっとも、最後のアレは予想出来なかった。エマ王女が勝手な行動をしたせいで、致命的な結果が生まれる寸前だった。

 

『イトセ君――ごめんなさい! 勝手な真似をして、本当にごめんなさい!』


  エマ王女は俺に謝ったり、感謝したりと混乱していて、暫くは落ち着かせるために何も言えなかった。


 ただ、俺はエマ王女には自分の力で出来ることと出来ないことを正確に判断してほしいと伝えたのみ。

 正しい力を持つことはこれからエマ王女がウェストミンスターで生きていく上で確かな糧になるだろうから。でも、それ以上は何も言えなかった。 


『エマちゃん、本当に駄目だよ。ローマン王族って他国の軍人とか傭兵には親の仇みたいに嫌われてるし、正体がばれたらすぐに殺されちゃうから~。イトセ君の言う通り、気を付けないと早死にしちゃうよ~』


『そうね……ジナちゃんの言う通り……心配かけてごめんなさい……』


『いいよ~。これがウェストミンスターで生きていくってことだから~。ほら、馬車が来たし、これで戦技ヴァジュラは終わり。他の皆はどうしてるだろ? 退学者、出たかな? もしかしてあのウィルが退学になってたりしてね』


 たたたっと、軽快に八番目の邸宅ナンバーエイトを背にするジナ様の背中を見ながら、俺は最後までジナ様に声を掛けることが出来なかった。


 だって俺じゃないからだ。エマ王女を助けたのは、俺じゃない。


『イトセ君、どうしたの? 行きましょ? あ、そうだ。イトセ君に聞きたいことがあるの。さっきローズがいたでしょ? あの子のことなんだけど――』


 今、俺の目の前ですやすやと天使みたいな寝顔で眠るジナ様。

 

「……」


 俺はジナ様にあの時、何をしたのか問いただすことが最後まで出来なかった。

 誰にだって事情がある。俺だって同じだ。俺だって幾つを秘密を抱えているのに、誰かの秘密を探ろうなんてあさましい。


 あの時、エマ王女が殺されそうになった時。

 確かに俺もローズもエマ王女を助けようと必死になった。それでもエマ・サティ・ローマンを救ったのは、傍観者であるはずの彼女だった。。


 きっとジナ様だって気付かれたとは思っていない――だけど、俺はこの目を通して、




「その女を殺せえええええええええええ!」

 ハンジョウが片手を地面についた。それがあいつの魔術個性ウィッチクラフトの発動条件――この目はハンジョウの動きを、ハチゴウの焦りを、ローズの驚愕を、エマ王女の諦めを、全てを見通していた。

ゾア――獣の如きビースト

 俺だけじゃ間に合わない、それが結論。

 だけど、ハンジョウよりも先に動いていた者がいた。それはローズだった。一時期、仮面のお嬢様として俺の元にやってきた依頼人、エマ王女の召使。

大雲ダイワン――」 

 ローズの攻撃がハンジョウへ向かう。それは俺に向かっていた力とは段違い。周りの人間に危害を与えながら、対象を丸ごと簡単に殺める力だ。

「無礼者が! ――エマ様に、手を出すなッ」

 本物の序列八位ナンバーエイトはエマ王女への忠誠心が残っていたらしい。



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