4-3 仮面のお嬢様

「エマ王女、ジナ様。お二人は、決して俺のそばを離れないように」


 がたがたと揺れる車内。

 ローマンの首都から出るための一台の馬車の中で俺達は揺られていた。目の前にはハレルドが聞けば憤死するだろう二人の姿。ウェストミンスター校2年の中でも、とびきり影響力の強い二人が座っている。そのうちの一人が、手を上げた。


「――はーい! 分かりました、イトセ君っ! でも、ジナは弱いから戦技ヴァジュラでは活躍出来ないと思うから期待しないでね~っ!」


 彼女の名前はジナ・ユーセイ。

 天真爛漫の言葉がこれほど似合う人はいないだろう。

 生まれの良さを鼻にかけることのないジナ様は、既に退学していった男爵家ヴァロンの中でも人気があった。問題があるとすればやる気のなさ。この人がどうしてウェストミンスター校に入学したのか、誰もが気にしているが未だ不明。


「よろしくね、イトセ君。私もあんまり力にはなれないかもしれないけど……」

 

 そして、もう一人はエマ王女。

 天から愛されし美貌を持つ、魔術個性ウィッチクラフトを持たない王女様。だけど、その事実は今だ秘密。


「エマちゃん、固いよ~」


 ジナ様が隣に座るエマ王女に声を掛ける。


「課外活動の時間はずっとそばにいるんだから、もっとリラックス、リラックス~! 今から緊張しても、疲れちゃうよ~!」

「ええ、そうね。ジナちゃんの言う通りだわ」


 ジナ様はピクニックとでも勘違いしているのかな。

 これから行われる戦技ヴァジュラはそんな生易しいものじゃないんだけど……。まあ、これがジナ様か。あのウィルが俺とジナ様を同じパーティに入れた理由は俺がジナ様に気に入られているからだとも言っていた。(誰にも聞かれないように、こっそりと教えてくれた)


「でも、イトセ君。ウィルにリーダーに指名されるなんて凄いね! しかも私とエマちゃんと同じチーム! モテモテ~」

「……光栄です、ジナ様」

「あは。光栄って顔してないじゃん~、厄介者押し付けられたって顔してるよ」

「ま、まさか……はは」


 ウィルが組んだチーム分けは、確かに見る目がある。あいつの目的はクラスから出る退学者を出来るだけ出さないこと(俺を除く)。そのために、あいつ自身も普段は絡みのない伯爵家コミスを中心としたチームに入っている。嫌味な公爵家デュークと同じチーム、チームメンバーを知った伯爵家コミス連中は青ざめていたっけ。


「でも、噂には聞いてたなあ~。二年生になったら学長のお遊びに付き合わされるって。ここから私たち、あの学長にウェストミンスターの卒業生に相応しいか選別されていくって話だよね~」


 なのに深刻な表情一つ浮かべないジナ様。


「ジナさん……やっぱり、その……噂って本当なの?」

「退学者が出るって話~? ほんとだよ~。でも、エマちゃんは王族特有の強力な魔術個性ウィッチクラフトがあるんだし、大丈夫だよ~」

「え、ええ……そうね……」


 ダン・ウェストミンスターが考えた課外活動型の戦技ヴァジュラ

 それはクラスをさらに細かいチームに分けて、ローマンという国の各地に派遣することだった。俺たちは目的地に到着するとそこで降ろされて、2泊3日の自給自足をしなければならない。そこで何が起こるかは到着してからのお楽しみ。

 貴族の親御さん達も大切な娘をよく危険な地に向かわせるなあ、と思うがこれがウェストミンスターという学校なのだ。


「ジナ様、エマ王女。一つお聞きしたいことがあるんですが」

「何~? イトセ君、急に畏まってどうしたの」

「二人の力を改めて教えてくれませんか――?」


 俺はこの二人と一緒に2日あるいは3日生き抜く必要がある。2年生の間で広まっている噂によると、今の3年生は閣下の唐突な試験によって大きく数を減らしたという。これはお遊びなんかじゃないんだ。


 二人の力を知らないことには、何も始められない。


「勿論、まずは俺から話します。ジナ様はよくご存じかと思いますが……」


 ――それに、俺達のチームが向かっている目的地が問題だった。


「俺の魔術個性ウィッチクラフト視力増強イグザムアイ。集中すれば、素早い虫の動きだって補足出来ます」


 俺達の馬車が向かう先は、八番目の邸宅ナンバーエイト

 現在は立ち入りが制限されている禁断領域。嘗てローマンという国をひっくり返そうとした大貴族の別荘であり、俺が全てを失った場所でもあった。



―――――――――――――――

ナンバーエイト……。


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