4-4 仮面のお嬢様
「イトセ君の
ジナ様が膝の上に置かれたポーチから取り出したのは片刃のナイフ。綺麗に研がれ、対面に座る俺の身体が反射するぐらい磨かれている。
「
ふよふよとジナ様の手の上でナイフが浮かぶ。……それだけ。
ジナ様の
「えへへ、どう? イトセ君、役に立ちそう??」
「……」
どうしてこんな
なのに、しっかりとドヤ顔を決めるジナ様。
自慢げなジナ様を前にして、とりあえず俺は褒めることにした。
「ジナ様、ありがとうございます。凄く……役に立ちます」
「本当-? ジナって
「ジナ様の力を役立たせることも、俺の仕事ですから」
「私、イトセ君と仲間でよかった~!」
「ちょっと! ジナ様! 」
彼女が急に席を立って、俺に向かって倒れこむように抱き着いてきたのだ。
小柄なジナ様、その全身を受け止める。俺に対してスキンシップの激しいジナ様だけど、これは度が過ぎている。
いつも思うけど、この人はどうしてこんなに俺を気に入っているんだ!
「……ジナ様、落ち着いてください」
「なんで~! いいじゃん、今は誰も見ていないんだし! 私がイトセ君のことを好きなこと、分かってるでしょ!」
さすがに馬車前部の業者席で馬を操っている御者には見えないだろけど……。
だけど、もう一人いるんだよ。この馬車の中にはもう一人!
ジナ様だって分かってるだろ! 確信犯だろ!
「……それ、やめて」
絶対零度の声でそう主張するのは、復学するだけでウェストミンスター校のヒエラルキー頂点を取ったお方。
「あ、そっか。エマちゃんがいたね」
「ねえ……ジナちゃん。はしたないと思うんだけど? 貴方、
見て分かるぐらいエマ王女の顔色が悪くなっている。なんで? ああ、そっか。エマ王女は勘違いしているんだよな。俺がエマ王女のことを好きだって。
自分に尻尾を振る犬が、他の人にじゃれつかれたら嫌がるとかそんな感情か。もしかするとエマ王女って独占欲が強いのかもしれない。
エマ王女の勘違い、早めに解消したいところだ。
さすがのジナ様もやばいと思ったのか落ち着いて、エマ王女の隣に戻る。無表情のまま、エマ王女は
「
エマ王女の右手、掌の上に黒い球体が発現する。エマ王女はそれを
「凄い! エマちゃん、やっぱり王族だね~! ローマンの王族っていえば
「ええ、そうね……私は下手くそだけど……イトセ君、こんなものでいいかしら」
「ありがとうございます、エマ王女。十分です」
エマ王女はほっとして、胸を撫で下ろしていた。
全ては、エマ王女の右手人差し指に嵌められた品の良い銀色の指輪。あれは一般庶民であれば目にすることも難しい
「でも、びっくりだよね~。私たちの目的地が
「……凄惨な事件でしたから」
「国をひっくり返そうとしたんだもんね、成敗されて当たり前だよ~」
「そうですね。俺もそう思います」
目的地は――
閣下の嫌らしい笑みが頭の中で浮かぶ。絶対に確信犯だ。俺が全てを失った場所で、俺達は二泊三日の自給自足を行うのだ。
「が、頑張りましょう! ジナちゃんも、イトセ君も……!」
それにきっと、これは俺が
「あれ、エマちゃん。イトセ君のこと、オルゴット君って読んでなかった? 急にどうしたの?」
「……べ、別に! 意味はないわ! ジナちゃんもそう呼んでるし……せっかく、同じチームになったんだから親睦を深めないといけないと思ったの!」
「あ、もしかして、エマちゃん。妬いてる~?」
「――ば、バカなことを言わないで! ジナちゃん!
馬車の中で1時間もすると、二人はすやすやと寝息を立てて眠ってしまった。
これから始まる過酷な二泊三日。体力を温存するために今は眠った方がいいと俺が伝えたからだ。言い出しっぺの俺も瞼を閉じたけれど、眠れるわけもない。
窓の外は、いつしか日の光も差し込まない森の中へ。
あの時、
管理者がいなくなった森は荒れ果て見る影もない。馬車が進む道だって雑草が生えて、あの頃の面影は全て消え去っている。
そして、俺たちは
「エマ王女、ジナ様。二人とも起きてください、着きました――」
―――――――――――――――
エマ王女「何なのこの子……ボディタッチが凄すぎる……」
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