3-11 同級生のお客様

 俺の目に映る光景は、まさに戦技ヴァジュラの神髄と言っていいだろう。


 ユリアンが右手を挙げて、ピストルのようにハレルドを捉えた。


ライ――穿つ、黄雷ブリッサ・ラクラ!』


 指先から雷が射出され、ハレルドの右肩を打ち抜いた。だけどハレルドの勢いは止まらない。あいつが、それだけで止まるわけがない。

 重戦車のように、あの子に向かって突撃。そして吠えた。


「あほが! お前コミスの静電気なんか、痛くも痒くもないッ!」


 ハレルドの右腕が、彼女の腹を打ち抜いた。

 彼女の身体がふわりと浮いて、ハレルドはさらに右足で彼女の身体を横から蹴り飛ばした。見ているこっちが痛くなる。明らかに、やりすぎである。 

 だけど、それでいい。彼女に一時でも付いた悪役のイメージを払拭するには、やり過ぎるぐらいがちょうどいい。

 ハレルド、観客が彼女に同情するぐらい徹底的にやってくれ。


「……」

「エマ王女。これが戦技ヴァジュラです。いつかエマ王女も、あれに参加させられます。その時は魔術個性ウィッチクラフトがないとか、そんな言い訳は通用しませんよ」

「……分かってるわよ。でも、イトセ君の友達。ひどすぎじゃない?」

「治療師の腕はピカイチかですから。死ななければ、大丈夫ですよ」


 ハレルドがちらりと俺を見た。ちょっと視線を動かして、俺の横に立つエマ王女も確認したのだろう。どう見ても、イラっとした顔で俺を睨みつける。

 今の表情は、何イチャイチャしてんだ、死ねってところだろうな。


「そろそろ終わりますよ、エマ王女」

「う、うわ……痛そう……」


 ハレルドのイライラが、彼女に叩きつけられる。耳に痛い衝撃音が届いて、彼女は気を失った。ハレルドも小さくない怪我を負ったが、それだけだ。


 大歓声の中でハレルドは右手を上げた。おい、ハレルド、それはやりすぎだ。ほら、歓声が途端、ブーイングに変わる。男爵家ヴァロンが調子に乗ったら、そうなるよ。

 あいつは顔を曇らせ、俺を見た。俺が軽く右手で拳を作ると、あいつは俺に向けて嬉しそうに軽く右手を振った。今夜の夕食は驕り決定だな。

 

 ●


 あの子の三手プッシュとして雷に打たれまくってから、数日が立ったある朝のことだ。後遺症もなく、何不自由なく日常生活を送っている。


 寝起きで髪の毛を整える俺の元に、一枚の郵便物が届いた。その差出人を確認すると意識が強制的に覚醒させられた。

 依頼の達成と報酬の受け渡しは、こうやって郵便物に紛れこませて届けられる。


「……」


 差出人は店長。勿論、店長とはあの有名人ダン・ウェストミンスター。紙には色々なことが書かれていた。次に受ける依頼とか、序列八位ナンバーエイトへの挑戦のことや、これからのこと。だけど全て、それに比べたら些事だった。


――


 心臓の鼓動がバクバクと早くなる。何もしていないのに、額に汗が浮かんだ。

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