4-13 仮面のお嬢様
閣下の手駒として働きだし一年でここまで上りつめた。
序列が上の者に敗北を認めさせることでのみ、序列は上がらない。
「
「新入り。やれやれー、まずは糸を切らないとあいつに近づけもしないからな」
有能な平民が閣下の手駒になる理由は様々。
最も大きな理由は金だろう、次に閣下に大きな恩がある者。だけど、手駒の一人一人に理由がある。俺の場合は恩だ。あの人の力になりたい、それが始まりだった。
「……ハチゴウ、手を出さねえのか」
「無理だろ。だって、あいつら俺より強い。ハンジョウ、俺たちの力じゃあの糸を切断することだって骨が折れる。ウェストミンスター野郎には、新入りが適任だ。見ろ、あいつもやり辛そうにしているだろ」
「
その通り、この仮面のお嬢様。
相性が悪い、時間を掛けて強度を高めた俺の糸を切断できるなんて中々いない。結構時間を掛けて立体的な蜘蛛の巣を作り上げたのに、ほら。もうすぐそこに。
「しぶとい――早く、降参して」
ローズが持つ小刀を避けると――彼女はすぐにその場を離脱。俺の目を異常に警戒しているのはローズも同じ。それはいわゆるヒットアウェイの戦い方。暗殺者向き。だけど今は傭兵団に入ってまで姿を衆目にさらしている。
「ハンジョウ、ウェストミンスター野郎がこの部屋から逃げようとすれば、お前の力で仕留めろよ。部屋で俺たちを待ち構えていたことから分かる通り、あいつはそろそろ限界だ。何しろ丸一日俺たちから逃げ続けているんだからな」
一晩戦いながら頭を整理した。ローズは
まあ――知らないだろうな。きっとローズがエマ王女の召使をやっていることでさえ、閣下を通じたローズの仕事だったんだろう。
髪の毛をばっさりと切ったのはエマ王女との決別の証か。
「……5年、私が、
接近したローズの声、俺にだけ聞こえる。
――俺は一年だけどな。
序列は有能さの証だ。ローズは平民であり、俺は貴族。貴族にしか出来ない仕事もある。だけど、ローズの声には悔しさが滲んでいた。
「……私が教える」
再び、小刀を避け――斬撃が後ろの壁を切り裂いた。ちらりとそちらを見れば、外が見えた。森の上からは仄かに明るい兆し。朝が来ようとしている。
「……二兎を追える程、楽じゃないって」
序列一桁以上に上がるには欠員(死亡か脱退ってやつ)が出るか、実力で上を抜かさなければならない。下から抜かされるってのは、序列上位連中には我慢ならないだろうが――。
「ハンジョウ、そろそろ、ウェストミンスター野郎が動くぞ。構えとけ」
「おう」
徐々にローズが俺の蜘蛛の巣を断ち切り、近づいてくる。ローズだって丸一日俺と戦い続けているのだ。疲労しているだろう。顔には出していないけど、ハチゴウ傭兵団に良いように利用されて、俺よりも疲労は濃いのでは。
この部屋で待ち受けていたのはローズを仕留めるため。
そのための力を残している。ローズを無力化すれば、次にハチゴウとハンジョウ。あの二人を無力化すれば後は雑魚ばかり。だというのに。
「――ボス! 一人、捕まえました! こいつ、どうしましょう!」
「……離して! 離しなさい! 私が誰だか分かっているの!?」
「この通り、自分をローマンの王族と名乗っているんですか!?」
一瞬、頭の中が真っ白になった。部屋の外から聞こえる声。それは間違いなく、彼女の声だったから。理解不能だ。エマ――どうして。君がそこにいるんだ!
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