3-7 伯爵家の少女(エマ王女視点)
どこまでも広がる快晴の空には一点の曇りもない。
「ふん、やはり見下げた男だイトセ・オルゴット。金に釣られて、
通称、第二会場には次に行われる
席は全て埋まり、立ち見も大勢。授業をさぼって、見に来たものも大勢。
「
「その女の子。プライドとかないのかなあ。幾ら何でも
イトセ・オルゴットとハレルド・ハールディが遂にぶつかる。実際の主役は違うのだが、彼らにとってはそんな小さいことどうでもよかった。
全てはユリアン・トランスポートが
――あの
「ユリアンが来たぞ! 見ろよ、オルゴットを引き連れているッ!」
「おい、オルゴット! 幾らで買われたんだよ! 教えろよッ!」
入退場ゲートからユリアンの姿、そして彼女の後ろからイトセ・オルゴットが登場すると、観客席から激しいブーイングが飛んだ。彼の前を歩くユリアンは下を向いていて、表情が窺い知ることは出来ない。少なくとも相当緊張しているようだ。
「ちょっと、前のデブ! 頭下げてよ! イトセ君がよく見えないじゃない!」
「そーよそーよ! あんた一人で二人分じゃない!」
男子生徒とは対照的に一部の女子生徒からは黄色い歓声が飛んていた。彼女たちの声は全てイトセ・オルゴットという青年に向けられている。
「お、お前らも残念だったな! オルゴットの連勝記録は止まったからなあ!」
「あんなの不正でしょ! イトセ君が手加減したの、私たちの目に掛かれば、丸分かりだったわよ! むしろ、分からないとか死んだ方がいいんじゃないの?」
肌の色は白く、日に焼けた男子生徒が多いウェストミンスターでは珍しい。
目尻がすっと上を向いていて涼しげな印象を持つ、不愛想な
「
黄土色の外套を羽織るイトセ・オルゴットは、俯いたままの
「……」
それがエマには気に入らない。今、彼の特別になっている彼女を見ていると、心の深いところがむかむかとしてくるんだ。
エマ・サティ・ローマンは生徒たちから離れた特等席で見学していた。
「――エマ様。機嫌が悪そうに見えます」
「べ、別に……悪くないわよ。普通!」
「本当ですか?」
エマの隣に座っているのは、彼女の召使だ。
イトセ・オルゴットの元へ一時期、
ローズは無表情でエマを見つめて言った。
「エマ様がお弁当を作られたのに、あの人は感想を何も言ってくれない。それに昨日は同じクラスに在籍している有力者からデートに誘われたことが気に入らないなら、そう言えばいいのです」
「……具体的に言わないでよ」
「エマ様。心配なさらないでください。イトセ様はエマ様のことが好きに違いありませんから」
「……ほんと?」
「間違いありません」
気持ち良すぎる断言。本人がいれば、ふざけるなと口を挟むだろうが。
「よく考えれば分かることです。イトセ様の行動は、エマ様の気持ちをもやもやさせるための見せつけですから」
イトセ・オルゴットはずっと不思議に思っていた。
何故、自分がエマ王女のことを好きだと、エマが勘違いしているのか。
全ての元凶が彼女だった。エマ・サティ・ローマンの召使、ローズだ。
「私は
「……だ、大好きって言わないで……恥ずかしいから……」
「あ、イトセ様。こちらを見ましたよ!」
「え、ほんと!?」
もっとも、彼にも悪い所があるのだ。
彼はグレイジョイ侯爵の手先からエマを救い出す際、ダン・ウェストミンスターからの依頼を意識し、必要以上に恰好をつけてしまった。
そんなイトセ・オルゴットの行動は、彼が思う以上にエマの心へ深く届いている。
「来たぞ、もう一人の
そして――肉体の強さを何倍にも膨れ上げらせる
「おい! ハールディ! 友人だからって手加減するんじゃねえぞ!」
大勢の観客が見たいものが、もうすぐ見れる。
別にイトセ・オルゴット、ハレルド・ハールディのどちらでもいいのだ。
それだけの理由でこれだけの人数が集まった。ウェストミンスター校の学生が、連戦連勝を続けていた
「それでは、
切なる願いを胸に秘め、店の扉を開いた
罵声と歓声が飛び交う中で、二人の
―――――――――――――――
黒幕登場。
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