4-9 仮面のお嬢様
ウェストミンスター校の卒業生は他校と比較すると卒業時点で目が違う、出来上がっていると言われている。全ては命を掛けたウェストミンスター校の伝統、生徒同士が全力でぶつかる
しかしなあ。閣下が唐突に提唱した郊外活動型の
「――勇敢なウェストミンスター校の生徒、昨日は新入りがお世話になったようだな。しかし
二日目、部屋の中で質素な朝ごはんを食べてた時にそれは訪れた。
カーテンを開けて外の様子を確かめると
『――即座に投降し、俺達の拠点から出て行けば手荒な真似はしないと誓おう』
今、この
ハンジョウの後ろには、昨日俺が
昨夜、伝言を聞いて俺の元にやってきたあいつは、自分たちは本隊から離れて拠点の留守を預かっていたにすぎないと教えてくれた。すぐに本隊がやってくるから
あいつは何でも言うことを聞くからエマ王女の誘拐に加担したことは黙っていてくれと震えていた。
『別に俺たちは
しかしなあ、この
ハチゴウ傭兵団は幾つかの国々をまたにかける傭兵団である。傭兵団の中では統率も取れた比較的、まともな奴ら。しかし奴等を2、3人で相手にするとなれば、ウェストミンスター校の生徒でも最上位の実力者が必要だろう。
『俺たちは一仕事終えた後でな、身体を休める場所が必要なんだ! 勝手な事情で申し訳ないが、獣もうろつく森の中で部下たちと一晩過ごすのは御免だ!』
奴らは俺達に
カーテンを閉めて、チームメイトの二人と方針を確認する。
これからどうするかって話だけど、エマ王女のほうは確認するまでもなかった。
もう顔色から白旗を上げている。あれと戦うなんてもっての他、奴らはこの
「……ハチゴウ傭兵団の名前は私も知っているわ! あの数、信じられない……」
ほら、やっぱり。
「これを
だけどエマ王女の声は外から聞こえる声にかき消される。
『――出てこないなら、別の選択肢を与えてもいい! うちのボスはウェストミンスターの生徒に特別な興味を持っている! お前たちがやってきた理由はあれだろ、あの逝かれた
――奴等も気付いている。この
「……ねえ、イトセ君……聞いてる!? あの数は無理だと思うんだけど!」
確かにハチゴウ傭兵団は何人ものプロの戦闘屋を抱えている。
あれが一斉に襲ってきたらさすがにこの二人を守りぬくのは厳しい。俺はエマ王女の問いかけには答えずに、ポケットの中から小さく折り畳んだ紙を取り出した。
「はあ、だから昨日も言ったのに~。エマちゃん、何も分かってないよ~」
ジナ様だ。椅子に座って足を組み、くつろいでいる。ジナ様だって外にいる傭兵団の姿を確認しているのに、落ち着きはらっていた。
「……な、何が言いたいのしらジナちゃん」
「エマちゃんが知らないのも無理はないけどね。イトセ君は一年生の時から
「……し、知ってるわ!
「ん~、私はどっちかと言うとウェストミンスターの方が陰湿だと思うけど――」
「――エマ王女、ジナ様」
二人の会話に割って入り、広げた紙をジナ様へ押し付ける。
どっちかと言えば、エマ王女よりもジナ様の方が頼りになりそうだから。この状況で落ち着いていられるってのは大したものだ。
一応、ウェストミンスターの生徒だし、ジナ様もそこそこ修羅場は潜り抜けているのかな?
「昨夜、地図を作りました。エマ王女を連れて俺が印をつけた場所に避難をしてください――食料は全て持って行って構いません」
昨夜ずっと見張りをしながら作り上げた。偽物ナンバーエイトの話も聞きながら、奴らが
俺が印を付けている場所は一晩、二人の身を隠すのにうってつけ。だけどエマ王女は納得いかないとばかりに声を荒げる。
「冗談は止めて……! 私も戦うわ……! イトセ君にも見せたでしょ! 私には
確かにエマ王女が
でも残念ながらエマ王女の
「私だって……役に立てる…………と思う……」
自分で言い出したエマ王女も自分の力が頼りにならないことは分かっているんだろう。徐々に声が弱くなったことが何よりの証拠。
気持ちはありがたいけど、その力は頼れない。
「もしもエマ王女が
俺の言葉に、エマ王女はバツが悪そうな顔で頷いた。
そして二人は俺の地図と食糧を持って部屋の中を静かに出ていく。二人の足音が聞こえなくなってから俺は窓を開けて奴等を見た。さっきよりも数が増えている。
そして傭兵屋ハンジョウ。
赤いドレッドヘアが印象的な傭兵団の副団長は俺に向かって声を轟かせた。
『ウェストミンスター校の生徒! 逃げるか100人抜きか。答えはどちらだッ!』
答える義理も感じない。
俺は窓枠に足を掛けて、息を吸い込み、身を宙へ投げ出した。
数秒間の浮遊感。そういえば最後に見えたエマ王女の顔は何かを俺に言いたげだった。……エマ王女だってこれが
だってあの人は俺の力、その一端を知っているんだから。
音もなく草むらの上に着地すると、奴等の中で小さなドヨメキが起こった。
対して俺は――少しだけイラついている。
原因は一つ。この程度の相手に、俺が敗北すると思われていたことだ。
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