3-1 同級生のお客様
エマ王女がウェストミンスターに復学して数日が経過した。
別に彼女が復学したって、俺の生活は何ら変わらない。あの日、俺に向かって学園に復帰すると宣言した時は並々ならぬ決意を感じたが、どうぞご自由にと言いたかった。
「……エマ王女。オルゴットに声を掛けるなんて、何を考えているのですかっ!」
俺が所属している2年C組にエマ王女は転入してきた。
元々一週間だけの登校って決まっていたからどこのクラスにも所属せず、授業が行われる教室に顔を出していたエマ王女。
正式にウェストミンスターへ復帰が決まり、王女がどこのクラスに所属するのか全校生徒の注目を浴びていた。
「私が授業中にクラスメイトの一人に声を掛けたこと、いけないのかしら?」
纏う清涼な空気、それに覇気が違う。
エマ王女は以前よりも明るくなったともっぱらの評判で、休み時間は周りのクラスメイトと明るく打ち解けている。勿論、俺以外。
エマ王女は俺との関係を誰にも知られたくないらしい。
……俺との関係って何だよって話であるが。
「エマ王女はまだご存じないかもしれませんが、あいつはウェストミンスターの誇りを汚す
さて、俺のクラス2年C組は早速、最悪の雰囲気に包まれていた。
全てはエマ王女が原因である。前の授業で、早速エマ王女はクラスのルールを破ってしまったのだ。
「奴がこのクラスに属しているというだけで、我々は誹りを受けているというのに!」
休み時間、エマ王女の周りを男子生徒が取り囲んでいる。
だけどエマ王女には臆した所がない。綺麗な姿勢で、真っ向から男子生徒を見つめ返している。
「同じクラスメイトよ」
「奴は、クラスメイトではありません!」
さっきの授業でエマ王女は、回答者に俺を指名した。
魔術統一学は先生が教壇の黒板に記載した問題について、回答者を特定の生徒に指名させるスタイルなのだ。そしてエマ王女が先生の代わりに回答者を指名していた。
(ちなみにこの世界でも黒板というものは、授業における必須アイテムである)
そしてあろうことか、エマ王女は回答者に俺を指名したのだ。
2年C組のルール【イトセ・オルゴットをクラスメイト扱いしない】に背いたのだ。
あのときの空気の固まり具合といったらなかったな。今でも笑える。
「オルゴットが2年生に進級したことでさえ、汚らわしいのです!」
「でも、きちんと彼は進級要件を満たしたってことじゃないかしら」
「関係ありません!」
王女を取り囲む男子生徒の一人が机を叩く。
「奴はウェストミンスターの伝統を破ろうとしている! ウェストミンスターが設立以来、この学園は伯爵家以下の卒業生を許していない!」
おーい、聞こえてるぞ。
少しは配慮しろよ、配慮。俺は机に肘を乗せて、ぼけっと目を瞑った。
「エマ王女。伝統が何よりも重要視すべき規律です」
「……」
「僕だって別にエマ王女を困らせる気はないのです。王女はこれまでウェストミンスターに通われていなかったので、知らないことも多いでしょう」
エマ王女が黙り込む。
「そうね……貴方の言うように私が知らないことは沢山あると思うわ。学ばなければならないことも」
エマ王女の言葉に、男子生徒達はふうっと息を吐いたようだ。
さすがに2年C組で頂点の公爵家出身の連中でも、エマ王女に意見するのは緊張するらしい。
「そもそもの話です。このウェストミンスターは四大校の中で最も卒業が難しく、伯爵家以上が推奨されている。学費だって
ハレルドにはママ活なんて言われたけど、そのことか?
平民の裕福なマダムから貰っているお小遣いも俺の大切な収入源だ。
お前らボンボンにとやかく言われたくないっての。
はあー。早く休み時間終わらないかな。
「オルゴットだけじゃない。二年生にはもう一人、ハレルド・ハールディという
「ありがとう。でも、自分の友人ぐらいは自分で選ぶわ。さあ、次の授業が始まるわよ」
何が面白いって、エマ王女の席は俺の隣。
今までの全ての会話は俺の真横で行われていたのだ。地獄かよ。
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