3-0 同級生のお客様(ユリアン視点)
授業と授業の間。
短い休み時間の間、赤髪のユリアンは椅子に座り、机に両肘をついて頭を抱えていた。
「……まずいわ」
周りで友人達が雑談に興じている。
普段なら率先してユリアンも輪の中に入るのだが、今は違った。ユリアンの脳裏によぎる一人の男子生徒。
「……本当に、まずすぎるわ」
エマ王女の一挙一動に沸いている友人の声も耳に届かない程、彼女は頭を抱えている。
ユリアンにとっては別クラスであのエマ王女が正式に復学をしたなんて関係なかった。王女がどんな香水や装飾品を身につけていけようが、今のユリアンの頭には入ってこない。
「やばい、勝てないって……」
学年の中でも成績優秀の部類に入るユリアンをここまで悩ませているのは、数日後に行われるとある授業の件。
彼女が在学している名門校ウェストミンスター校には設立当初から続く特別な授業がある。
「はぁ、どうしてこのタイミングであいつと当たるのよ」
それは生徒同士の殺し合いを是とした戦技、と呼ばれる授業。実際に生徒同士の戦いで最悪の事態が訪れるのは数年に一度。少なくとも、ユリアンがこのウェストミンスターに入学してからは一度もない。
「どうしたのよユリ。さっきから顔色が悪いけど」
エマ王女の振る舞いに感嘆の声を上げていた友人達はようやくユリアンの常とは違う表情に気づき、心配そうにユリアンの机の周りに集まった。
「あ、分かった。ユリ、授業で強い人と当たるんでしょ。次勝てば5連勝だもんね。そりゃあ緊張するか」
机の上に肘をついて頭を悩ま続けたユリアンは、友人から話しかけられて顔を上げた。5連勝、まさにユリアンが頭を悩ませている件だ。
「ユリ。ほんとに顔色悪いよ?保健室、いく?」
燃えるような赤髪と、気の強さを表した勝ち気な赤い瞳。
彼女のトレードマークである元気さも、今は鳴りを潜めていた。
「……ハレルドよ。次、あの野獣と当たるの」
その言葉に集まる友人達もさっと顔色を変えた。
そして彼女達はちらりと教室の隅っこで椅子に座る男子生徒を見つめる。視線の先は一人の生徒。
ハレルド・ハールディはユリアンのクラスメイトであるが、曰く付きの生徒だ。今は眼鏡を掛けて黙々と本を読んでいるが、彼に話しかける生徒は当然誰もいない。
ウェストミンスター校の第二学年には、有名な
ハレルド・ハールディと別クラスのイトセ・オルゴット。
「え、でも……ユリ。次に勝てないと……奨学金出ないよね……?」
友人の言葉がユリアンの胸に重くのしかかる。
「だから勝たないといけないのよ。どんな汚い手を使っても……」
ユリアンは何としても次の戦技で、あの野獣ハレルド・ハールディに勝利しなくてはならないのだ。
――二年生で唯一、連戦連勝を続けている化け物と。
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