2-5 一週間の恋人

 俺が序列一桁ナンバーナインに上がったのは、このウェストミンスター校で二年生に進級することが決まった日のこと。


 序列一桁ナンバーナインに上がってからも、序列二桁だった時と同じように簡単な依頼が店を通じて与えられていた。


 けれど、ここにきてウェストミンスター閣下から直接与えられるでかい仕事だ。

 しかも成功すれば、序列八位ナンバーエイトへの挑戦権が手に入る。どんな手を使っても成功させたい。

 

「イトセ。こんな深夜に相談って何だよ。眠いんだけど……」

 

 全寮制のウェストミンスター校。

 隣にはハレルドが住んでいる。部屋は本や書類で溢れていた。真夜中だってのに、ハレルドは起きていた。

 俺が渡したテストの過去問で勉強していたらしい。

 

「惚れさせたい女性がいる。どうしたらいい?」

「イトセ……相談相手が何で俺なんだよ」


 ハレルドはあくびをしながら、眠そうな瞼をこすった。


「お前しかいない。俺は恋愛には疎い」

「ウェストミンスター校でぶっちぎりでモテてる男のセリフとは思えないぜ。男子生徒からお前が特に嫌われてる原因って、女子からモテてるやっかみもあるだろ」

「モテているわけじゃない。男爵家ヴァロン出身が進級出来るのは難しいから、珍獣扱いされてるだけだ」

「はあ……それを言うなら俺も男爵家ヴァロン出身なんだけどな……」


 たった一週間であのエマ王女を惚れさせろなんて不可能だ。

 でも、閣下からのお望みだ。


「で。白い死神スノーホワイトなんて呼ばれてる色男様が、好きになった女の子は誰なんだよ」

 

 白い死神スノーホワイト――誰が言いだしたか知らない。

 俺の外見と戦技の連勝記録を掛け合わせて、ウェストミンスター校の女子生徒が言いだしたんだ。

 イトセ・オルゴットの戦い方は、白い死神スノーホワイトみたいだって。


「それは秘密」

「まあ、いいけどよお。だけどイトセ。俺たちはこのウェストミンスター校で最底辺なんだからさ、ここで誰かを好きになっても辛いだけだと思うぞ。学生時代の恋愛は続かないっていうしな」

「ハレルド。結論は?」


 序列八位ナンバーエイトへの挑戦権。

 閣下は俺のことをよく分かっている。俺は何よりも上に行きたい。


 閣下の手駒、序列が高い程大きな仕事が出来る。これまで小さな仕事を積み重ねて、やっと序列九位ナンバーナインに辿り着いた。

 序列一桁から先は、依頼の難易度も上がるって聞いたことがあった。


「――その子に優しくすればいいんじゃね? ほら、モンスターを手懐ける時だって、自分は敵じゃないってアピールするだろ? あれと同じ理論だな」


 ハレルドの助言はいつだって的確だ。

 困ったら、こいつに相談するようにしている。これまで何度も難題にぶつかってきた。その度にハレルドからアドバイスをもらって依頼をクリアしている。

 ……エマ王女に優しく、か。

 ちょうど今、依頼を貰っているけど、あれを利用するか。


「あー、それにだな。悩みとか解決すれば、いいんじゃね?」


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