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何だか知らないけど、俺は前世でトラックに激突して死んだ後、遠いどこかの異世界で金髪の男の子に生まれ変わった。目つきの悪い、色白の男だ。
成長するに従い、前世と同じように身長が平均よりも高いことには満足している。
で、今は学校に通っている。日本でいう、高校的な。
「今日の授業はこれまでとする。各自、復習に励むように。おっと、そうだ。先週行った小テストの結果を廊下に結果を張り出しておく……諸君が結果を見る前に一つ言いたいことがある」
学校って言っても俺が前世で通っていたコンクリートで出来た3階建ての校舎とかそんなレベルじゃない。毎日、宮廷の晩餐会が行われていそうな、煌びやかな世界。名前をウェストミンスター魔術学校という。
「諸君は――栄えある貴族としての矜持はないのか? 大半の授業に欠席されているエマ王女殿下に成績が負けていること。恥ずかしくないのか?」
目を瞑っているとオーケストラの演奏やバラの香りが漂ってきそうな、オシャレな学校だ。正直、オシャレ過ぎて居心地が悪いぐらい。
教壇に立つ先生だって、どこの映画から出てきたんだよってレベルで格好いい。
「諸君。誇りをもって、勉学に取り組むように。以上」
先生の小言が終わって、今日の授業は解散。ふう、やれやれ。
授業終わりの鐘の音と共に、教室の中から大勢の学生が部屋を出ていく。
「よう、色男! お前、今日も授業中寝てたな。目の下にクマ出来てるぞ!」
「……背中を叩くなよ。お前の力は強いんだって」
「イトセ。お前はもっと、食べろって! じゃないと、今学期から始まる遠征の授業に落ちちまうぞ?」
俺も教科書の束を脇に抱えて、流れに乗る。俺に話しかけてきたのは男友達の一人。ハレルド・ハールディ。癖っ毛の金髪が少し目に眩しい。
この学園の中でも俺と同じように埋もれている、ハールディ男爵家の次男坊。
でっかい身体で魔術の素質もある。なのに卒業後の進路は学者志望の変わり者。
大柄なこいつに叩かれると、素直に痛い。
「なあ、イトセ。帰りにドンドル爺の駄菓子屋、寄ってこうぜ! 春の新作、出たらしいんだよ!」
「ハレルド。お前、これ以上身体がでかくなると強制的に父親から軍隊に入れられるって、放課後の買い食いを抑えてなかったか?」
「よくよく考えると俺は我慢が出来ない男だった!」
あ、ちなみにイトセってのは俺の名前ね。イトセ・オルゴッド。
オルゴッド男爵家の三男、それがこの世界の俺の立ち位置。当然、俺に相応しい底辺貴族だよ。
「ちょっとだけ貼り出された成績、見てみるか、イトセ」
「いいよ、ハレルド。どうせ俺は載ってないし」
「まあそう言うなよ! 折角だから、行こうぜ! ちなみに俺は少しだけ自信ある! 学者志望だからな!」
廊下に出ると、まず赤い絨毯が目に入る。ふかふかで、足で踏むのが申し訳ない。
そして窓の外には目に優しい緑の園が広がっていた。この煌びやかで、かつ、穏やかな光景を見るたびに、前世とは全然違う世界に来ちゃったなあと思うんだ。
「おい、見ろよイトセ。またエマ王女殿下が一番だ。凄いよなあ、王女殿下」
廊下に張り出された順位表を見て、ハレルドが感嘆の声を上げる。
見え麗しい10代後半の男女が大半を占める宮廷学園。歩いていれば、どこからかオーケストラの演奏やバラの香りが漂ってきそうな学戦生活。
「エマ王女殿下。政務で忙しくて滅多に授業にも出てこれないのに、いつ勉強してるんだろうなあ」
「さあな」
「なんだよ、イトセ。お前は興味ないのかよ」
「俺達みたいな貧乏貴族は一生関わることのない王女殿下だろ。どうでもいい。それに授業に出なくても高得点を連発出来るのは、どうせ素晴らしい家庭教師でもついているんじゃないのか」
貴族に生まれついた俺でも、雲の上の存在だと思うような方々が大勢いる。
同級生のエマ王女殿下はその筆頭かな。だけど、俺みたいな貧乏な底辺貴族だって、国を支える平民の前では雲の上の存在なのだから不思議なもんだ。
「冷めてるなあ、イトセ。そんな冷たいのに、お前がモテる理由が納得いかない」
「いたい。だから、背中を叩くなって……」
廊下で自分たちの成績結果を確認している同級生の輪から離れる。
あそこにいると息が詰まりそうになる。
「で、イトセ。今日の放課後だけど……」
「断る。俺はこれから、小遣い稼ぎだ」
「また、例のお小遣い稼ぎか。お前、同級生たちから噂されてるぞ。何か怪しい仕事をしているんじゃないかって――具体的には、その容姿を活かして、ママ活なんてのを――おい、イトセ! 俺の話、聞いてんのか!」
うるさいっての。
俺はただ、前世の記憶を活かして、社会貢献しているだけだよ。
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