王女殿下は、俺との関係を秘密にしたいらしい(俺との関係って、何?)

グルグル魔など

1-1 時を戻そう

 俺は、子供にも笑われるぐらいの、でっかい夢がある。


 ●


「ごめんなさい、イトセさん……貴方の気持ちには、私、答えられません……!」


 この王女殿下は、何を言っているんだ?

 端的に言って、意味が分からなかった。エマ王女殿下が依頼の報酬を支払うってことで、うきうき気分で待ち合わせ場所に向かった結果がこのざまだ。


「私……王女だから……勿論、イトセさんが私のことを好きになる気持ちは分かるわ……! ……自分が美形なのは……私が一番分かってるから……!」


 いや、貴方は確かに美形ですけども。


「……」


 馴染みにしている喫茶店の奥。

 清涼な庭を楽しめる静かな個室で依頼者である彼女が待っていて。


「私のことをそんな目で見つめても駄目だから! 苦手なのよ…学園に行かないのも……告白されるのが嫌だからだし……! その辺の女の子は、その目で落ちるのかもしれないけど……私は……違うから!」 


 こ、告白?

 それに――俺がどんな目で見ているっていうんだ?  


「……イトセさん。貴方のこと、調べたわ……男爵家なのに……学園の中でも隠れた人気者……貴方の家よりも遥かに高い地位の女の子だって貴方のことを狙ってる……だけど、貴方は色恋なんて興味なしって態度……影では白い死神スノーホワイトなんて……」


 調べたっていう割にはしょぼい。そんなのウェストミンスターに通っている生徒なら誰でも知っているって。


「……」


 はあ。最初は、取るに足らない依頼だと思ったんだ。

 結果として、依頼人の王女様に俺の二つ目の魔術個性ウィッチクラフトがばれてしまったことは痛手だけど、その程度で済んだことは運がよかったとも言える。


「で、でも……イトセさんにはお世話になったし……私もその……イトセさんのことは悪くはないとは思ってる……」


 学園では高嶺の花扱いされているエマ王女殿下が白頬を染めていた。


「けど……けど! それでもやっぱり私たちは立場が違って……! あ、別にイトセさんの身分が低いとかそういうことじゃなくて……!」


 彼女は顔を真っ赤にしながら、俺をちらちら見ていて。

 話が長い。


「……でも……イトセさんがどうしても……私のことを諦められないっていうなら……私もその……やり方は……色々あると……思うっていうか……協力出来ることはあるかもしれないと思うから! イトセさんの魔術個性ウィッチクラフトははっきり言って凄いわ……! 貴方が望むなら、私の――!」

 

「エマ王女殿下」


「な、なに!?」


 そのワクワクした目。

 この国の王族は、全て全部自分の思い通りになるとでも思っているのか。


「勘違いしているようなので、はっきり言います」


 俺は長い話が嫌いだ。

 それに本当に意味が分からなかったから、逆に問い返してみた。


「俺、貴方のことをそういう目で見ていません」

 

 すると、エマ王女は一瞬、ぽかんとして。

 これ。伝わってないな。もう一度、言おう。

 

「俺、貴方のことをそういう目で見ていません」


「……え? ……ん、んん。ごほん。も、もう一度、言ってくれるかしら」


 いつものように冷静で落ち着いた表情。

 学園では棘を持つ、小さなお姫姫プリンチペッサと呼ばれる所以となった顔になり、俺にもう一度、同じ言葉を繰り返すように命令した。だから俺は言いつけ通りに。


「だから俺、貴方のことをそういう目で見ていないんですけど」


 すると、エマ王女殿下はわなわなと震えだして。




 時を戻そう――話は二週間前にさかのぼる。


 

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