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さて、当日の家の状況がわかったとして、次は何を考えればよいのだろう。
……あ。
「そういえば父上、どうしてその日が、事件当日だとわかったのです?」
「ああ、それはもちろん、毎日家宝があるかを確認しているからだ。あの家宝の間に行ってな。その前の日まではちゃんとあったのも確認している」
家宝の間。ずいぶん堂々とした名前である。初めてこの家を訪れた人間でも「あ、ここに家宝があるんだな」と一発でわかる親切設計だ。
そのおごりとも言える部屋の名前だが、決しておごりではないある重要な理由がある。
「不思議なことに、結界が破られた様子はなかったな」
そう、結界だ。
あの家宝の間には結界というシステムがあり、システムに登録されたディヴィス家の人間しか入れない。
もし登録されていない人間が入れば、極太高出力レーザービームが集中照射され、チュン、という軽い音とともに肉塊となる。体が小さければ肉塊も残らないとか。
つまり「家宝の間」とわかりやすくしているのは、お客さんがうっかり部屋に入って蒸発しないようにするための配慮だ。
なぜならこの部屋の結界システムについては世間的にも認知されている。
というのも、この結界システムは元々、王家が持つ神器の力を一部提供していただいたものだ。そして他75家の騎士屋敷も平等にこれを採用している。
つまり「家宝の間に入る、すなわち死」は世間の常識である。
(ちなみに、王家にある本体の破壊力はこの結界の比ではなく、町一つがチュンと消える。本当にバランス取れてるのかという疑問の声も上がっている)
「しかしそうか。犯人が結界を破らず実現したとなると……犯人は、やはり身内!」
さっき身内を疑ったら激高したあなたが言いますか父上。
「落ち着いてください父上。結界を破らず、それでいて身内以外が盗む方法はほかにもあります」
「なに!? どういうことだ!?」
「ディヴィス家の人間に、取りに行かせればよいのです。結界のある家宝の間の外まで」
「つまり……」
「母上を利用したのです。あの状態の母上なら簡単に騙せますし、それでいてごまかすこともできます。つまり、犯人は母上の状態を知るもの!」
「いや、しかしだな……」
「父上、現実を見ましょう。これまで精いっぱい、世間に母上の状態を隠してきたのかも知れませんが、隠しごとはどこかで必ずバレます。きっと、この状態を知るものがいるのです。そうとわかれば話は決まっています。今すぐ町へ出て、聞きこみをしましょう! 一緒に!」
我ながら冴えていると思った。特に最後の方だ。なぜなら……、
「いや、そうじゃない。お前は少し母さんを見くびりすぎだ」
「え?」
「お前は母さんが完全に壊れて全く会話もできてないと思っているのだろうがそうじゃない。いや、お前はそう『思い込みたい』のかもしれないな……。だが違うんだ。母さんだって、知らない人が来ればちゃんと認識するし、その人に家宝の間に入れと言われれば不審に思う。そんな人が来たら、仕事帰りのオレにちゃんとそれを伝えてくれる。そして事件の日、オレは家宝が盗まれたと知った後、もちろん母さんにも確認したんだ。事件のことは伏せてな。だが母さんは、不審者なんていなかったと答えた。オレはそれを信じている」
……まだこの人は、この母上に希望を持っているのだろうか。
甘い。
「それにな、確かに最近はいつにも増して疲れてる感じだ。でもそれは、今回の事件があったからなんだ。事件のことは伝えていないんだけどな。やっぱり、オレやシャーリーの様子から色々察したのだろう。そして責任も感じているようだ。要するに理性があるのだよ」
やめてくれ。聞きたくない。その希望に付き合わされた人間の苦しみが、お前にわかるのか。
その時、
「おや、クリスさんでありませんか。お元気そうでなによりです」
救いの声。その主は我が妹、シャーリーである。
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