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家宝。
我がディヴィス家は地方の騎士という家系でありながら、国内有数の地位と権力を持つ由緒正しき一族だ。
それを成立させているのが何を隠そう代々より伝わる『家宝』である。
この家宝について説明するとなると、話はこの国成立の歴史までさかのぼる必要がある。
現国王の先祖、初代国王は幾重もの戦争に勝利し、建国の父となった。
その戦争で勝利の鍵となったのが77つの兵器、通称『神器』。
この『神器』は他国の千年先を行く技術が詰め込まれたと言われ、これがある限りこの国は安泰ともされていた。
例えば一振りで海を割ると言われる巨大な剣であったり、例えばどこに向かって放っても、確実に狙いに届く弓であったり……。とにかく、あらゆる武器とは一線を画す規格外の協力な兵器が神器だった。
しかし初代国王は恐れた。力の集中によりやがて自分の子孫たちが独裁者となることを。
そこで初代国王は、77つの内、最強の神器を王家に、残りの76をその建国をめぐる戦争で、特に貢献した騎士や貴族、資産家一族に託した。
ここまで話せばおわかりかと思うが、そのうちの一人が、我がディヴィス家のご先祖様であり、ディヴィス家が一介の騎士の家系と一線を画しているゆえんだ。
つまり我がディヴィス家の家宝は『最強の兵器』であり『権力の証』である。
それが盗まれたとあれば一大事だ。
「すまない。このまま見つからなければこの家は……。さらに後継ぎのお前にも苦労をかけることに……」
父上はすっかり諦めているようだった。
ただ、私は話を進める必要がある。
「それで、このことは他の誰かに知られているのですか? もしくは通報したり」
「いや、通報もしていないし、誰かに知られたということはないはずだ」
妥当な判断だ。
一度でも盗まれたということが知れ渡ったら、それだけでこの家の地位は失墜する。
たとえ取り返せたとしても。
「恥の上塗りであることも承知の上でお願いする。クリスよ、解決は身内だけでしたい。お前の力も借りたい」
「……当然ですね」
父上がとても小さく見えた。
「では、事件を整理しましょう。盗まれた当日の状況を教えていただけますか?」
と、それっぽくは言ってみたが私は推理に関しては素人だ。うまくできているだろうか。
「事件当日……。オレはいつものように仕事……、訓練場で若手兵士の指導をしていた。シャーリーも、いつものように学校へ行ったようだ」
「その証拠はありますか?」
「なに!? それはつまりオレたちを疑っているということか!? 家族を疑うとは何事だ! そんな人間に育てた覚えはないぞ!」
「ね、念のためです」
ちょっとびっくりしてしまった。元気なくても普通に恐いよ父上。
「ふん。証拠なら問い合わせればいい。軍にでも学校にでも」
「そ、そうですね」
「出勤や出席の記録は残っているし、共にすごした同僚や学友も覚えているはずだ」
「では、一旦お二人のことは信じましょう。そうなりますと、事件の当日、この屋敷にいたのは母上だけということでよいですね?」
「ああ」
母上はこんな状態だが、我が家は執事もメイドも雇っていない。
なぜって、母上がこんな状態だからだ。
母上がこんな状態だということを、世間の誰にも知られたくない父上の選択。
世間への体裁がなによりも大事だった。
その結果が、こんな状態の母上に一人でこの屋敷の留守番を任せるという最悪の状態を招いているのである。
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