#26 過去を探ったその先は
資料を探し始めてから十数分後。
当時の新聞記事をまとめたスクラップブックを見つけた創平たちは、意気揚々とそれをソファまで持ち帰り、向い合せに座って検討を始めることにした。
物量からだけでも、当時の熱狂ぶりを容易に窺い知ることができる。バインダーサイズで13冊。ギッシリ詰まった中身を真面目に閲覧すれば、数日はかかる情報量だろう。
創平と久利生は
「どこもかしこもオトコ臭っ! って写真ばっかっスけど……うーん」
「わかる。いまの感性と違うから、服装とか髪型で年齢の推測は難しいよね」
「みんながみんな、パンツにシャツインしてますけど、オタクかなんかスか?」
「当時はそれが普通だったんだよ。シャツの裾をズボンに入れなくなったのって、たしか90年代からじゃなかったっけ」
「へー、さすが遊部さん。オサレに詳しい……スーツ着てるヒトは、今も昔もサラリーマンっスよね?」
「それは記号として分かり易いかな。ただ、普段着のヒトも……なんか、みんな似たような髪型じゃない?」
「……ん~、白黒だと分かり辛いっスね。あ、でも服装もそうじゃないっスか? パターン少ないですけど。流行ってたのかな」
「そうかもしれない。というか、ユーフォー・アタックも世界中でヒットしていたし……流行に敏感なヒトが映っているのは当たり前か。ん? まてよ」
創平は資料から顔をあげ、メガネにかかる前髪を鬱陶しそうに掻きあげると、
「アーケードゲームに熱中するなんて、可処分所得が高くないとできないことだよな……それに、身だしなみにも気を遣っているくらいなんだし、そこから年齢層のアタリだって――」
ブツブツと何事かをつぶやきながら、ノートPCを立ち上げるや否や、猛烈な勢いでキーを叩きだす。久利生は静かに席を立つと、興味深げに創平の背後からそっと画面をのぞき込んだ。
どうやら自作のスクリプトに手を加えて、特定のキーワードに関わるデータをWebから
創平が手を止めてしばらくすると、ネット上のフリー百貨辞典の記事や動画共有サービスのリンク先が、次々と画面上へ表示されていく。久利生は邪魔をしないよう、黙って創平の様子を見守っていた。
しばらくして、
「ユーフォー・アタックが発売された年ってさ、激動の時代だったんだね」
創平が誰とはなしに、ポツリと呟く。久利生は微笑むと、
「現実におかえりなさい」
「ただいま。世界規模で高度成長期を迎えて……ははぁ、興味深い。ねぇ、久利生さん。当時の日本人の生活必需品って、なんだと思う?」
「ヒントはありっスか?」
「今回は無し――えっと、車・カラーテレビ・クーラーを併せて『3C』って言ってね。新時代を象徴する家電だって、みんなが羨望していたんだって」
久利生にも見えるように、PCを反転させる。当時のニュース映像やチラシが、そこには映っていた。
今ではあって当たり前のモノだからこそ、久利生には当時の環境が未だにイメージできていないのだろう。その証拠に、彼女は「……はぁ」と気の抜けた返答しかできていないでる。
創平は、そんなことはお構いなしといった調子で、
「1970年から80年にかけて――面倒だから、70年代とまとめちゃおう。この当時、社会現象とも呼べるヒットコンテンツが他にもたくさんあったみたいだね。有名なところで『大阪万博』、『未知との遭遇』、『スターウォーズ』――うーん、どれもビッグネームばかりじゃないか。高度成長期になって、生活の様相が変わったことに起因しているのかもしれない。どれもSF、というか、未来への憧憬を感じるさせるラインナップだよね」
そこでようやく、創平がディスプレイから顔をあげると、伸びをするように腕をあげた。
「当時の日本というか、世界中のヒトにとって『未来』とは――希望に満ち溢れて、豊かさの象徴になるような――夢とか無限の可能性を喚起させるキーワードだったのかもしれないなぁ」
「あー、今とは真逆な感じっスね」
苦笑する久利生に、創平は「たしかに」と頷いた。将来を悲観する現代とは、まったく異なる価値観である。
創平は新たな気づきの昂ぶりをグッと堪えて、久利生に向き直った。
「ちょっと乱暴だけど、世界中で10年間も『未来ブーム』が続いたんだ。ブームって、ある現象が一時的に世間へ拡散して、大規模な消費をともなう行動だよね。それが一過性でなかった場合、根っこにある
傍らに置きっぱなしにしていたメモパットを手に取ると、
「彼らが夢中になったユーフォー・アタックには、こんな感じの
そう言って、スタイラスをもの凄いスピードで走らせていった。
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誰に? ……未来の技術に夢を馳せる男性。16~24歳、独身。正規/非正規雇用者。
どんな欲求? ……ワクワクするような未知の体験に触れてみたい。
↓
どんな便益性? ……世界で初めて、コンピュータと手に汗にぎる真剣勝負が体験できる。
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「……へ? え、えっと……あ、あれ? あれれ…………? これって――」
久利生が驚きの声をあげた。それを見て、創平が満足げな吐息を漏らす。
「うん。これがおそらく、ユーフォー・アタックが成功した秘訣であるところのコンセプトだったんだろうと、僕は考えている」
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