#11 スタッフィング

 創平がタバコの煙を吐きながら、何気ない調子で周囲に目を向ける。


「このプロジェクトって、結構スタッフがいたんですね」

「うん、そだよ。小さいプロジェクトだったけどさ、一同がそろうとけっこう壮観でしょ?」


 土岐が薄い胸をはって自慢げに答えた。



 大所帯でゲーム開発することが当たり前になった昨今、プロジェクトに関わる人員は、制作の進行状況タームに併せて常に流動を繰り返している。


 遊びのを検証する基礎段階――いわゆるα期間中がもっとも人数が少なく、素材の大量生産や仕様を次々に実装しなければならない中盤のβ期間には、もっとも多くの人員がアサインされていく。


 ただし、不具合をとり除くデバッグ期間に入ると座組は一変し、必要最小限のスタッフ以外は適宜リリースされていくようになる。どんな巨大なプロジェクトであれ、企画立ち上げから完成まで一貫して関わるスタッフは、極論を言うとプロデューサとディレクタくらいしかいなかったなんて話は、この業界ではよくあることだった。



 話を戻して、創平が土岐のチームへ合流したタイミングは、そのデバッグ期間でも最終段階のマスターアップ前夜――この場で初見のスタッフが大勢いたとしても、なんら不思議なことはない。



「最終的に何人くらいアサインしたんですか?」

「うーん、正確な数はアタシも微妙なんだけど――」


 創平がかすかに眉根を寄せる。土岐は「ユニークじゃなく、最大値で言うと」と前置きして、思いだすように指折り数えて言った。


 ・ディレクタ:1人

 ・プログラマ:5人

 ・グラフィッカ:9人

 ・プランナ:4人

 ・スクリプタ:1人

 ・デバッガ:10人


「――で、最後にプロデューサのアタシ、と。ちなみに開発期間は1年ちょいだったかな」



 創平は額にかかった前髪を払うと、


「リメイクだと、やっぱりグラフィッカが多くなりますね。完全移植のHDリマスタだったら、けっこう工数は削減できたんでしょうけど……」

「まぁ、確かにそうなんだけどさ。レトロゲーだって最新機種に移植しようと思ったら、言語がそもそも違うんだから、どうやったってサラから作り直しになるじゃない? しかも、当然のように目コピでさ。開発に余計時間がかかるってこと、経企けいきは分かってネタだしてんのかね?」


 土岐がグラスのビールを煽いで、ぷはーと息をつく。


「まぁ、そんなこと、どうでもいいんだけどさ……ほら、創平くんも。飲んで飲んで」

「いや、ボク飲まないですから」

「なんでさ!」

「近い――近いって、もう……ほら、アルコールが入っていたら、急な呼び出しがあったときに仕事ができないでしょ? クセになっちゃったんですよ、本社にいたときの習慣が」


 黙って話を聞いていた久利生が、感心したように呟いた。


「いやぁ、半端ないなぁ……本社勤務だったら、そんなことも気にしないといけないんスねぇ」

「いやいや、無いから。ありえないから。でも本当っぽくてマジ怖いから」


 土岐は肩をすくめると、空いたグラスにビールを手酌して、ぐいっと一息で飲み干した。創平もタバコを消し、手近にあった唐揚げの残骸へ箸をのばすと、無表情で咀嚼する。



「そういえば、僕も聞きたいことがあったんですけど」

「意味深な前置きされると、ヤな予感しかしないなぁ……んで?」

「完成した『オリンポスの復活』って、どれくらいサバけそうなんですか?」

「予約率なら七割超えたって、さっき営業部のヤツが自慢してたよ」

「……僕が出荷本数を聞いてるの分かってて、誤魔化してますよね?」

「くふふふ~、お酒飲んでくれないから教えたげない!」


 理不尽すぎる物言いに、創平が「なにそれ?」と表情を曇らせる。その様子が無性におかしかったのか、土岐がツボに入ったように吹きだした。

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