喋る

ぬいぐるみが話せばいいのにって思ったことはないだろうか。

私は常々思っている。

例えば、一人で寂しい時や慰めてほしい時など。

一人暮らしの人はぬいぐるみに癒されたくなるのではないだろうか。


秋と冬の変わり目の時期。

案の定というかなんというか、私は風邪を引いてしまった。

元々身体が弱く、季節の変わり目などには風邪を引きやすかった。

布団で熱にうなされながら悪夢を見てしまった私は(この時の悪夢はまた後ほど)、とても人肌が恋しくなってしまったのだ。

何をしても、何もしてなくても寂しい。

風邪が引いていたら寂しがりになるというのをよく聞くが、私は典型的なそれだった。

友達と話そうも、学校なので邪魔できない。

本当に世界で独りになった気がして、泣きそうになったその時だった。


「ねぇ」


が聞こえた。


出どころを探ると、枕元に置かれていたアザラシのぬいぐるみだった。

そのアザラシは言う。


「さみしいの?」

「…うん」

「じゃあ、ボクがいっしょにねてあげるよ」

「…うん」


そう言ってもぞもぞ布団に入ってきたのである。


今なら怪奇現象といっても過言ではないが、なにぶんその時はまだ小学一年。

ぬいぐるみに夢を持つ年齢だ。

不思議ともなんとも思わなかったのか、それが気にならないほど寂しかったのか。

今となってはわからないが、その日私は新しい友達ができたとアザラシを離さなかった。

けれど母が帰ってきて、あまつさえ私の熱が下がっても、そのアザラシくんはもう二度と動いたり話したりしなくなった。

今、アザラシくんは他のぬいぐるみと一緒に押し入れに収まっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る