お祭り

夏休み終了間際に、珍しく友達に誘われてお祭りに行った。

友達が浴衣を着てくるとかいうので、私も浴衣を着せてもらった覚えがある。

友達が私が浴衣を着るのなら絶対転ぶとか言って迎えにきてくれた。

良い友達を持ったものだ。


お祭りのある神社は歩いて十分ほどだった。

結構有名で大きな神社なため、その日も人がいっぱいだった。

屋台をぐるぐる回って一息ついたところで、お化け屋敷の看板が目に入った。

おどろおどろしいな。

避けて通ろうとするとニヤリとした友達が入ろうぜと手を引っ張って(転ぶという理由で手も繋がれてた)お化け屋敷の入口に並んだ。

おいおい待ってくれ、私は現物じゃないお化けは苦手なんだ。

そんな私の必死のお願いも虚しく、順番が回ってきた。

恐る恐る入口をくぐると、途端にお祭り騒ぎの音も人々の声も何もかもが聞こえなくなった。

けれどお祭り特有のノリなのか、笑いながら進む。

後ろで足音がした。


「ばあ」


ゾンビが私達を見ていた。


「ぎゃあああああああああ!?」

真っ先に友達が駆け出した。

…私を置いて。

浴衣を着なれていない私は前がはだけそうになるのを必死に抑えて走る。

「待ってや…!」

「いやや!だってゾンビおるもん!」

「おらんって!?おら、うわっ!?」

どしゃ。

転んだ。

いったいな、もう。

泣きそうになりながら立って走る。

友達の背中が出口の扉を開いた。

慌ててその背中を追いかける。


がつっ。


両開きの扉が勢いよく私のおでこに当たった。

「いったぁ…うぁああぁあ!!」

それが痛くて痛くて。

泣き出した私にあとから追いかけてきたゾンビがオロオロとした。

「…あ、あの、大丈夫?痛い?」

「うわぁああぁ!!」

ゾンビは少々口下手なようでどうするべきが迷っているらしい。

ぐすぐすと泣くこと数分。

「大丈夫、大丈夫。痛くないよ」

「ぅあぁあ…あ…?」

頭をぽんぽんされた。


え、私今ゾンビに頭を撫でられてる?


申し訳なさそうに私の頭をよしよしするゾンビ。

なんか涙が吹っ飛んだ。

お礼を言ってから扉を開く。

後ろでゾンビがバイバイと手を振っていた。


「ごめん、大丈夫だった!?」

友達が私に駆け寄ってくる。

「ん、なんかゾンビに頭ぽんぽんされた…」

「は?」


それからだ。

私がゾンビを怖がらなくなったのは。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る