自転車
高校の時、家から自転車で四十分のところの学校に通っていた。
その通り道には神社がある。
薄暗くなってくると気味が悪いので、あまり通りたくなかった。
けれど、そっちの方が近道だから陽がある内に通り抜けるのが多かった。
ある夏の日、いつものように自転車をえっさほいさと漕いで帰っていた。
暑くて暑くてたまったものじゃない。
そのまま家まで直行コースだ。
今日はコンビニ寄ってスイーツなんか買わない。
そう思った途端に踏み切りに引っかかってしまった。
なんということだ。
私が何をしたというのだ、神よ…と嘆く。
しかも今は日暮れ時。
ちょうど帰宅ラッシュに引っかかり、踏み切りは中々開かない。
今日はほんとについてない。
暑いのに耐えかねた私は滅多に通らない近道の方を通る決心をした。
神社の横の細道にも踏み切りがあるのだが、駅とは随分離れているため、待つ時間が短い。
私がそっちに行った時にはもう踏み切りは開いていた。
やったぜとか思いながら神社を見ないようにして踏み切りを渡る。
ぐん、と自転車が急に重くなった。
あ、と察して、後ろのヤツに見つからないように振り返る。
めっちゃ美人さんだった。
長い黒髪に白い透き通ったワンピース。
前髪で見えないがきっと可愛い顔立ちだろう。
そんな子が自転車の後ろに乗ってたのだ。
「おもい?」
鈴のような声で聞かれて首を振る。
「いや、全然だいじょぶだけど…え、めっちゃ可愛い」
しまった、心の声が。
その子が笑った。
いや笑っても可愛いなおい。
「ならよかった」
「いこう」
そう言って前を指差す少女。
こくこくとうなずいてペダルを踏み込んだ時。
ごぉぉおお!!
目の前数センチのところを電車が通った。
びびってその場に自転車ごと倒れる。
「え、え、…え?」
よく見ると自転車のカゴが微妙に歪んでいる。
…もし、もっとぐっとペダルを踏んでいたら。
さああ、と顔が蒼くなった。
「ちっ」
どこかから舌打ちが聞こえた。
はっとして辺りを見回すと、いつの間にかあの子がいなくなっている。
それからどれだけ探しても、いくらその道を通っても、その子は見つからなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます