5 -射程無限の完全治癒士-

 見渡すかぎりの草原の真ん中で、悠々と佇ずむ老人がいた。

 長い杖を支えにしながらも、背筋をぴんと伸ばすその様は、まさしく王。だがその顔には緊張の欠片もなく、ふふふ、と聞こえてきそうなほど柔らかい笑みが浮かんでいた。

 その視線の先には、暗雲いただく魔王城。

 不気味なそこへと向かうのは、地平線を埋め尽くさんという数の人影。

 それらは足取り確かで、不死者というわけではないことがよくわかる。

 まるで戦争が起こらんとしているかのような景色に見入る一国の王に、


「あのー、王様? 俺も出なきゃダメっすかね」


 背後から恐る恐るといった雰囲気で尋ねるのは、ちょうと数日前に王の間に蘇生させられた勇者だ。軍勢とほぼ同じ装備を身に着け、だがどこか緊張感の抜けた顔。


「何を言うておる。おぬしがこの軍の指揮官なのだぞ? もちろん、将はわしじゃがな」


 そっすかー、と脱力しながら数歩前に出て、首を鳴らした彼は、きびきびと魔王城へと歩き始めた。逞しい背中に、ほほほと王は笑う。


「ここからが本番よ、魔王」


 一人になった国王を取り囲むのは、ゆらりと現れた数体の魔物。不気味なたたずまいのそれらにひよることもなく、宣言する。


「わしの魔法射程無限、そして完全治癒パーフェクトヒールをなめるでないぞ!」


 ほぼ同時に、王の周囲が大爆発する。魔物は消し飛び、焼け焦げた草に唯一経つのは、やはり国王だった。


「これが最後の決戦じゃ! 我が治癒を受けるがいい勇者たちよ! 治癒促進リジェーン!」


 城から現れる魔物に吹き飛ばされる者たちは、受けた傷などなんのそのとすぐに立ち上がる。


筋力強化パワーエンハンス! 魔力強化マグックエンハンス!」


 いかなる巨体の魔物も、先鋭化された数の暴力に叶うはずがない。


即時蘇生フルリカバー! 毒無効アンチポイズン!」


 城になだれ込む勇者の群れだが、


麻痺無効アンチパラス! 防御強化ガードエンハンス!」


 中で起こっていることが分かっているかのように、王は次々に魔法を行使していく。誰一人対象から漏れることなく、全ての勇者が加護を受け、魔物を駆逐していく。


「さあ、魔王よ、どう出る?」


 疲労の色を一切見せない王は、再び近づいてきた魔物を一瞬で灰にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る