4 -不敗の美酒-

「さあ次はどう出る……ちんけな勇者ばかりを繰り返し向かわせ、もう飽きたぞ、人間の王よ」


 黒い雲のせいで遠くも見えない私室に備え付けられたバルコニー。そこでまがまがしい玉座に腰かける魔王は、にやにやといびつに笑っていた。たまに走る雷にその姿を照らしながら、じっと下界を望んでいる。


「数度、同じ者をよみがえらせ、人を変えて同じことを繰り返す……なんとも浅はかな王よなぁ」


 次いで、天を仰ぐほどの高笑い。全身を揺らして、それはもう楽しそうに。


「人は学ばぬか! ハッハハハ! 愚か! 愚かよ!」


 地上に届こうかというそれが止み、彼は指を鳴らす。すると城内から配下であろう顔色の悪い人間のような魔物が現れ、持ってきた深い青色をした液体の入ったグラスを差し出した。ご苦労。ねぎらいの言葉をかければ、魔物は軽く礼をしてから、どこかへと姿を消す。

 グラスを回しながらうっとりと波打つ様を眺め、顔に近づけたかと思うと香りを味わう。そして少量、口に含むと、もごもごと頬がうごめく。数分にも及ぶテイスティングを終えると、ようやく飲み込んだ。鼻から大きく空気を吐き出し、ほころぶ表情。


「今日も、黒酒が美味だ……」


 次の一口を求めて、またグラスを傾ける。

 水平を保つ液体は揺れ、ゴロゴロと光る雷に、その姿を青く魅せる。

 だがぴたりと止まった手によって、わずかに開いた口から喉へ、ダイレクトに酒が流れ込む。


「ッ! ごほっゲホッ!」


 突き抜けるアルコールの臭いと、気管に攻めてくる液体。激しく波打つ液体はどうにか、こぼれることなく玉座のひじ掛けに乱暴に設置される。そして勢いよく立ち上がったかと思うと、すたすたと前方へ歩き出し、勢いよく手すりをつかんだ。一瞬、軋む音。


「な、なんだあれはあぁぁ!!」


 目を見開きながら黒雲を睨み、叫んだ魔王は、さきほどの余裕はどこへやら、バタバタとふらつきながら室内へと走り出した。汗を浮かべながら廊下、最上階へと駆け上がると、玉座に駆け寄ることなく号令をかける。


「勇者……いや、勇者軍が攻めてきた! 応戦するぞ!」


 咆哮にも等しいそれに、びりびりと震える城。それを皮切りに、城中に黒い穴が開き始める。空間という布にハサミを入れたかのようなそれはみるみるうちに広がり、数々の魔物が姿を現す。それらは各地に散っているような魔物ではなく、この城の要となる者たちであった。


「ゆけ! 人間どもに思い知らせてやるのだ! 我らがいかに優れているのかをな!」


 黙々と配置につく魔物に、ようやく魔王は玉座についた。息を荒げ、にやりとしながら。

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