3 -re^2 勇者の戦い-

 数日後、国王はため息をつく。


「大臣、もう一度あの勇者を蘇生するぞぃ」


 どうそ、と短い答えを聞き終える前に立ち上がった国王はコツコツと音を立てながら広間の中央に立つ。そして紅色のマントの下から杖を取り出す。それは二の腕程度の長さの、きらびやんな装飾の施さた杖だった。


「新たに芽生えてはついえし、幾重にも繰り返される輪廻」


 一の字を描くように振るわれ、藍色の一筋の軌跡か宙に閃く。


「我は人の頂に座す者、我は天に最も近き者」


 言葉の節目に合わせて、また線が結ばれる。


「その命さえもを律する神の力、ここに顕せ」


 斧で薪を割るように振り下ろしたかと思うと、王の目の前で魔法が発動する。

 窓もない広間にも関わらず、入口からごうと入り込んだ風が、王の前へ集う。不規則なようだが、自ら編まれるそよ風のようなそれは、どんどん一か所に集まっていく。次第に激しくなる風は、パチパチと光を生み出し、激しさを増していく。

 広間にいる人々は眩しさに目を細める以外は、眉一つ動かすことはなかった。それは人一人分の大きさになると、次第に風は穏やかになっていく。光もだんだんと弱まり、ついには消えてしまう。

 先日と同じように一人がうつ伏せで倒れていた。その者は髪一筋から爪先まで、同一人物である勇者がぐったりとした様子で倒れていた。


「ああ勇者よ、死んでしまうとは情けない!」


 王は一度、しわがれた声を轟かせると、のそのそとゆっくりと振り返り玉座へと戻った。同時に大臣がため息をつく。


「王よ、これで何人目なんでしょうな。ざっと、八十くらいでしょうか」


 ふふ、と疲労の色を浮かばせる王。


「大臣よ、ろくに数えておらんのか。この勇者で百じゃぞ。さっきので六百三十七回目……骨のあるやつも減ったものよのぅ」


 嘆かわしい、とため息をつくものの、枯れた瞳をらんらんと輝かせる王。どうされましたか、と眉を寄せる大臣が問うが、何でもないぞ、と微笑みながらごまかすばかりだ。

 勇者が再び声を上げて、ゆっくりと起き上がる。

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