1 -re: 勇者の戦い-

 魔王の住まう城からはるか向こう側で、一国の王は大きく息を吸い込んだ。


「ああ勇者よ、死んでしまうとは情けない!」


 豪勢な玉座に腰かける国王の前には、彼が以前、勇者の称号を授けた一人の男が倒れている。


「まだ魔王は王女を監禁し続けておる。一国の危機じゃ。どうにか救っておくれ」


 あー、と起きることもせず、けだるそうに声を上げる勇者。ゾンビがごときうめき声だが、王の間にいる誰も、動じることはない。


「勇者よ? この蘇生術もタダではないんじゃぞ? 一回いくらと思っとるんじゃ」


 彼を軽く見下ろしながら、深いしわに茶目っ気をにじませながら首を傾げる。その隣で大臣が、早く起きろと勇者に命令する。

 渋々立ち上がった男は、鎧も剣も、出立する時と同様の出で立ちであった。布地破れもなく、鎧の損傷もないが、当の本人は驚く様子もなく剣を抜いてその具合を確かめる。


「何度見てもすごいじゃろ? この国の王だけが使える秘術がついておるんじゃ。この魔法がある限り、魔王に勝ち目はないのじゃぞ?」


 にこにこと笑う王様に軽く返事をした勇者は、振り返って歩き出した。王の間を抜けて、姿を消す。大臣がいつになるのでしょうな、と王に耳打ちするが、気長に待とうではないか、と国王は満面の笑みだ。

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