ああ勇者よ、死んでしまうとは情けない~王様は射程無限の完全治癒士~

ラクリエード

プロローグ -敗北-

 天すらいただかんとする城の、最上層にて、また一人の勇者が散っていった。

 魔王の圧倒的な力にあらがったが、それを覆すことあたわず。

 人をまねた姿をやり捨て本性を現した魔物は、どんな剛撃も魔法も、効かん効かんとあざ笑い、なぶり殺す。

 やがてぴくりとも動かなくなった勇者を見下ろしながら、魔王は人の身に姿をやつす。そして両手を広げ、高らかに笑う。


「おお、勇者! なんとも無様だ! 人の王よ、何度勇者を差し向けようと、同じことよ! さぁ、次はどうするつもりだ!」


 ここまで一息に口にした彼は、ふぅと息をついてから足元を見やる。暗い赤色をしていた乱れた絨毯に倒れていたはずの勇者の亡骸は、剣も、鎧の欠片さえも跡形もなく消え去っていた。


「次はどんな奴をしむけてくる? 楽しみにしているぞ、国王よ……」


 魔王は号令をひとつかけると、広間は生き物のようにうごめき、損傷が戻り始めた。

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