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昔、これというほどの理由もなく別れた男と女がおりました。しかし今も男を忘れることが出来なかったのでしょうか、女の許より
うきながら人をばえしも忘れねば かつ怨みつつなほぞこひしき
(つらいまま貴方を忘れることができなくて 怨んでいるのにそれでもなお貴方が恋しい)
といえば、男はやはりと言って
逢ひは見で心ひとつをかはしまの 水のながれてたえじとぞおもふ
((逢ってつまらぬ事で恨みを持つよりは)顔を合わせずとも互いの心が一つなら中島にぶつかって河が別れて流れても一つに合わさり絶えることはないと思う)
と詠むも、その夜に女の許へ行って共に夜を過ごし、昔の事、今後の事などを話し
秋の夜の
(秋の長い夜は千の夜の如く、その千夜を一夜と
と詠みました。女はこれに
秋の夜の千代をひと夜になせりとも ことば残りてとりやなきなん
(秋の夜の千夜を一夜となりましても 語り尽くせず鳥は朝を告げるのでしょうか)
と返し、男は以前よりも情が深まり女の許へ通いました。
※
【二十二段】
昔、はかなくて、絶えにける中、猶や忘れざりけん。女の許より
うきながら人をばえしも忘れねば かつ怨みつつなほぞこひしき
といへりけれは、さればよといひて、男、
逢ひは見で心ひとつをかはしまの 水のながれてたえじとぞおもふ
とはいひけれど、その夜いきてねにけり。いにしへゆくさきの事どもなどいひて
秋の夜の
返し
秋の夜の千代をひと夜になせりとも ことば残りてとりやなきなん
いにしへよりも、あはれにてなん通ひける
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