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 昔、幾月と音沙汰のなかった人が桜の盛りを見に立ち寄れば女は


  あだなりと名にこそ立てれ櫻花 年に稀なる人も待ちけり

  (移りやすいと聞き及んでおりましたが、桜の花は一年の内、稀に訪れる人をお待ちしておりました)


 と詠み


  けふ来ずは明日は雪とぞ降りなまし 消えずはありとも花を見ましや

  ((あだなりと言いますが)今日来なければ明日は雪のように散るのだろう 消えずに咲いていても花と見られましょうか)


 と返しました。


※年ごろに関して、今泉氏の伊勢物語講義にて『新釋に、年ごろは、月ごろの書きあやまりなるべし。年比にては、歌に年にまれなるといへるにかなはずといへり。此の説よし。』を参考。



【十七段】

 昔、年ごろ音信おとづれざりける人の櫻のさかりに見に来りければ主人

  あだなりと名にこそ立てれ櫻花 年に稀なる人も待ちけり

 返し

  けふ来ずは明日は雪とぞ降りなまし きえずはありとも花を見ましや

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