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 昔、男は陸奥国で、たいした身分ではない者の妻の許に通っておりました。このような身分の男と添うべき女には思えなくて、その心を見てみたく


  信夫山忍びて通ふ道もがな 人の心の奥も見るべく

  (信夫の山 忍んで通える道があってほしい 分け入ってあなたの心の奥も見られるよう)


 京の人はたいそうお上手だと女は思いましたが、このろくでもない蝦夷所えびすどころで生まれ育ったゆえ、どうしたら良いのか。


※蝦夷所 陸奥(現在の福島県、宮城県、岩手県、青森県)、出羽(現在の山形県、秋田県)などはすべて”えびす”と言った。また東を侮った言葉でもある。



【十五段】

 昔、男、みちの國にて、なでう事なき人のむすめに通ひけるに、怪しうさやうにてあるべき女にはあらず見えければ、

  しのぶ山忍びてかよふ道もがな 人の心のおくも見るべく

 女、かぎりなくめでたしと思へど、さるさがなき、蝦夷所えびすどころにていかがはせん。

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