★★★ Excellent!!!
空想のような景色だからこそ浮き彫りにされる恋の実体 和田島イサキ
天高く恋に浮かれる『私』と、はるか奈落の恋に落ちる『友人』の、恋のお話。
タイトルの通り恋のお話です。ジャンルは「現代ファンタジー」となっており、確かに間違いではないのですけれど、でもそう聞いてパッと思い浮かぶであろうものとはだいぶ手触りが違う作品。おそらくはタグの「言葉遊び」というのが発想の起点となっているというか、ある種の比喩的な心象風景の描写みたいなものが、そのまま物理法則として成り立ってしまう世界の物語です。
圧巻でした。それ以外に言葉が浮かんでこない……まずもって冒頭二行の言い切りがすでに強い。恋に浮かれるものと落ちるもの。さらにそこから意味段落全体(というか『だから私は〜〜』の行まで)を読めば、もうだいたい世界に取り込まれてしまう。この説得力。言葉遊びの巧みさや発想の美しさもあるのですけれど、単純に文章力がすごいんですよね。言い回しの妙に独特の節回し。一文一文に小さなフックがあって、ただ読んでいるだけでいちいち楽しくなってしまう文章。それが内容としっかり噛み合って(あるいはこの内容だからこの文章なのか)、引きつけられるみたいにグイグイ読まされてしまいました。なにこれすごい。
心象風景が物理法則を上書きするような、ある種不思議な世界を描き出しているのですけれど、でも書かれているもの/こと/人は、あくまで現実そのものであるところがとても好き。主人公である『私』やその『友人』は、別にわたしたちと全然違う世界に住む何者かではなく、むしろ常識や価値観をそのまま共有できる存在なんです。最初に言った「だいぶ手触りが」というのはこのことで、単純に現象だけ見ればファンタジーなのですけれど、でも読んで受け取ることのできる実感や味わいは完全に現代ドラマのそれ。この時点でもうだいぶやばいことになっているというか、これを成立させてしまっている時点でもう勝ちだと思います。こんなの…
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