天高く恋に浮かれる『私』と、はるか奈落の恋に落ちる『友人』の、恋のお話。
タイトルの通り恋のお話です。ジャンルは「現代ファンタジー」となっており、確かに間違いではないのですけれど、でもそう聞いてパッと思い浮かぶであろうものとはだいぶ手触りが違う作品。おそらくはタグの「言葉遊び」というのが発想の起点となっているというか、ある種の比喩的な心象風景の描写みたいなものが、そのまま物理法則として成り立ってしまう世界の物語です。
圧巻でした。それ以外に言葉が浮かんでこない……まずもって冒頭二行の言い切りがすでに強い。恋に浮かれるものと落ちるもの。さらにそこから意味段落全体(というか『だから私は〜〜』の行まで)を読めば、もうだいたい世界に取り込まれてしまう。この説得力。言葉遊びの巧みさや発想の美しさもあるのですけれど、単純に文章力がすごいんですよね。言い回しの妙に独特の節回し。一文一文に小さなフックがあって、ただ読んでいるだけでいちいち楽しくなってしまう文章。それが内容としっかり噛み合って(あるいはこの内容だからこの文章なのか)、引きつけられるみたいにグイグイ読まされてしまいました。なにこれすごい。
心象風景が物理法則を上書きするような、ある種不思議な世界を描き出しているのですけれど、でも書かれているもの/こと/人は、あくまで現実そのものであるところがとても好き。主人公である『私』やその『友人』は、別にわたしたちと全然違う世界に住む何者かではなく、むしろ常識や価値観をそのまま共有できる存在なんです。最初に言った「だいぶ手触りが」というのはこのことで、単純に現象だけ見ればファンタジーなのですけれど、でも読んで受け取ることのできる実感や味わいは完全に現代ドラマのそれ。この時点でもうだいぶやばいことになっているというか、これを成立させてしまっている時点でもう勝ちだと思います。こんなの面白くないわけがない。
内容、というかお話の筋というか、書かれているもの自体も最高でした。恋の話。ここまで主人公の主観に沿った形で描かれているのに、その熱情や感傷の上にしか成り立たないものであるのに、くっきり疑いようもない形で恋そのものを切り出している。
急におかしなことを言うというかこの先は完全な持論なんですけど、恋というのは元来その当事者にしか知覚できないもので、故に他者が(読者という立場であれ)それを物語を通じて実感するには、どうしても〝その人の恋〟という形にならざるを得ない部分があると思うのです。〝恋をしている誰か〟を通じて想像するもの。が、しかしこの作品は全然そんな感じがしないというか、なんだか手を伸ばせば掴めそうな形で『普遍的な恋そのもの』を描き出しているような感覚。いや自分でもなに言ってるかわからなくなってきたんですけど、でもこれ形が見えません? 単に『私』や『友人』への共感(同化)のさせ方がうまいってだけではない気がするんですよね。
満喫しました。最後のハッピーエンドなんかもう言葉が出ないくらい。本当にタイトル通り、まさに恋そのもののを目の前に削り出してみせた、心はずむ冒険のドラマでした。面白かったです。