青春の化け物

夜橋拳

青春の化け物

「魔紀さんのことが好きです! 俺と付き合ってください!」

「......お友達からなら......」


今日、告白された。

相手は会社の後輩の羽川君。

仕事ができて、顔が良くて、性格が良くて、......一言で言うと、モテる男。

嬉しかったけど、とても嬉しかったけど、――断ってしまった。

羽川君はいつも私の愚痴を聞いてくれる優しい人。とっても優しい人。

彼に好意が無かった訳では無い。いや、はっきり言って好きだ。好きです。大好きです。

ならなんで断ったのか、それは、

他に好きな人がいるのだ。――天国に。


もう7年も昔の話になる。

高校生の頃、友達もいない私には彼氏がいた。

羽川君みたいにイケメンじゃないけど、とっても優しい人。

ちゃんと叱ってくれる人だった。

明るくて、眩しくて、兄みたいな人だった。

彼は早生まれだったので、私より歳上の時間は多かった。

そんな彼に、私は甘えてばかりだった。

わざと自傷的なことを言って彼に心配をかけさせた。

「あなたがいないと私は死んでしまう」

こういうことを何度も言った。何度もメールで送った。

実際、彼が死んでものうのうと生きている私がここにいる。


彼の死因は事故。車に轢かれて死んでしまった。

正確には、車に轢かれそうになった私の代わりに轢かれた。

罪悪感。こんなものでは済まない。


私のせいで彼は死んだのに、私に罪がないこと。


○○感で済むほど優しいものでは無いこと。


これが私だ。


罪悪感から私を引いたら悪しか残らない。

悪に私の名前を1文字足したら悪魔の完成。

そう、私は悪魔なのだ。

他人の魂を勝手に売って、生き残った悲しい悪魔なのだ。

私には誰かを好きになる事はできても、誰かと幸せになれる事は出来ない。しない。

そこまで図々しくない。


そして今日は彼の誕生日だ。

私は何もしない。彼のことを考えるだけで何もしない。

罪滅ぼしならぬ悪魔滅ぼしだ。

彼は天国からきっと私を見ているだろう。だから私は何もしない。私の抱く悪の意識を知って欲しいから。


ブルルルルルルルルルルルルルルルルルルルルル


携帯電話が鳴った。メールが来たようだった。


『龍ケ崎陽介』


!?!?

「え............!?」

携帯の液晶に映っている文字は龍ケ崎陽介である。それに間違いはない。

――龍ケ崎陽介。

彼氏の名前である。

「は、なんで?......なんで?」

恐る恐る、恐れながら私は自分の携帯に手を触れた。

いつもの感触、安っぽいプラスチックのすべすべとした肌触り。

......メールを覗く。

!!


『よう、久しぶり。

覚えてるか?(笑) 俺だよ。龍ケ崎陽介だ。

実は俺、まだ生きているんだ。


車に轢かれたあと、異世界に転生して、魔王を倒す勇者になって魔王を倒したんだ。凄いだろう!


このメールは仲間の魔法使いが魔王を倒した後に作り出した時空転送ナントカカントカ以下略......らしいんだ。よく分かんねえけどそっちにメールを送れる魔法らしいんだ。


最初は送ることを迷った。これを送ったら俺のこと思い出してお前が悲しむんじゃないかって、でも送った。流石に俺の最後の言葉が「危ないっっ!!」なんて悲しすぎるもんな(笑)


だから遺言を言いに来た。


最初に言っておく。この魔法を使うのに凄い魔力が必要で俺がそっちの世界に行くなんてことは出来ない。


それに俺は、仲間の魔法使いと結婚することになった。


だから俺はもうお前の彼氏を辞めなきゃいけない。


だからもし、もしもだ。

もしも俺のことを引きずっているんだったら、忘れてくれ。


俺はこんな奴だ。お前が思ってるほど良い奴じゃない。

だけどお前はいいやつだ。俺が思っているよりもずっと良いやつだ。


だからお前には幸せになって欲しい。

俺の事なんて忘れてくれていい。

二度と俺のことを思い出さなくていい。

きっとそれはお前の幸せの邪魔になるから。


......なんか、俺っぽくないな(笑)

そろそろ字数制限が近くなってきたな、最後に俺の気持ちを言っておくよ。

もう嫁ができる身だから「大好き」とか、「愛してる」とかは言えない。

だから代わりの言葉で言う。


いつも俺のそばにいてくれて、

俺のことを好きでいてくれて、

命を天秤にかけるくらい好きでいてくれて、

本当に、


ありがとう』



何故だろう、これ程になく嬉しくて、悲しいのに、涙も出ない。


「あなたは優しい人ね」


私は彼にメールを返すことにした。

もちろん、返せるとは思わない。

でも一応、書いておこうと思う。


『メールありがとう。

でも、あなたが心配することじゃないわ。

なぜなら――





「ねえ、羽川君?」

「は、はい! なんでしょうか!」

羽川君はキョドってる。可愛い。

「私と付き合ってください」

「YESイエッサー! ......って、え?」

羽川君は動転している。なんかもう愛おしい。

「もお、何度も言わせないでよ。あなたが好きです!」

「え、......いいんすか?」

「うん、一日考えてみたんだけどやっぱり私羽川君のこと好き」

すると羽川君は俯いた。

「よっ、」

よ?

「しゃあああぁぁぁ!!!」

羽川君はそれはもう高校生みたいに喜んだ。


――もうこの人がいるから。

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青春の化け物 夜橋拳 @yoruhasikobusi0824

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